あわて)” の例文
「成程、あの時吉太は毛が変るといったが、真実ほんとうであった。」と思い出して、吉太があわてて絵具皿を奪ったことなど考えた。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
膝をいたので、乳母があわて確乎しっかりくと、すぐ天鵝絨びろうど括枕くくりまくら鳩尾みぞおちおさえて、その上へ胸を伏せたですよ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あわてて御文を開けて見ますと、思いもよらず御姫様は、いかに左大弁様を思いわびてもとんとつれなく御もてなしになるから、所詮かなわぬ恋とあきらめて、尼法師あまほうしの境涯にはいると云う事が
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
役人達はあわてて白洲へ飛び降りて、怪量のいましめを解いて無礼を詫びた。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とび込んで来た男はあわてて外れた雨戸をたてながら上ずった声で低く
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
出しくれよと逆立せきたてられ下女はあわて膳拵ぜんごしらへすれば大膳は食事を仕舞ひ用意も底々そこ/\に龜屋をこそは出立せり最前さいぜんの如く江戸の方へはゆか引返ひきかへして足にまかせてまたかみの方へと赴きける主人の徳右衞門は表の戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女教師はあわてて首をすくめて、手巾ハンケチで口を抑へた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)