あわ)” の例文
さてその金の催促に来るごとに、役人を近村の料理屋へ連れ行き乱酔せしめ、日程尽き、役人あわて去ること毎度なり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
あわてて紙で押えて涙を拭き取り、自分の写真とならべて見て、また泣いた上で元のように紙に包んで傍に置いた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
家中のものはあわてて眼を移した。そこには阿賀妻がいた。彼のそげたほおには無精ひげが風にしなっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
宅から猛烈な催促の電話をうけてあわてて帰って礼服を着て大神宮にまかり出た。その時の記念写真を見るとフロックコートはつけているがカラーは平日のダブルのままであった。
放心教授 (新字新仮名) / 森於菟(著)
荷車が驚いて道側みちばた草中くさなかける。にわとり刮々くわっくわっ叫んであわてゝげる。小児こどもかたとらえ、女が眼をまるくして見送る。囂々ごうごう機関きかんる。弗々々ふっふっふっの如くらすガソリンの余煙よえん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
兄が何気なくそこへ手をやると、蜘蛛は今度はその手の甲の上にわだかまって、腹を動かした。兄はあわててもう一方の手でそれを払った。そうしてその瞬間に彼のからだは中心を失って地上に落ちた。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
家持はあわてて、資人の口をめた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「ご、ごめん——」と彼はあわてていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)