心柄こころがら)” の例文
心柄こころがらとはいひながらひてみずから世をせばめ人のまじわりを断ち、いえにのみ引籠ひきこもれば気随気儘きずいきままの空想も門外世上の声に妨げまさるる事なければ
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
全く心柄こころがらではないので、父の兼松は九歳の時から身体からだの悪い父親の一家を背負せおって立って、扶養の義務を尽くさねばならない羽目はめになったので
時にあの馬鹿者の金蔵……ああいう執拗しつこい奴もないものだが、あんなのがゆくゆくは胡麻ごまはい、追剥、盗人、そんなことに落ちるのだ、心柄こころがらとはいえ、気の毒なものだ
心柄こころがらとは云いながら誠にお気の毒な事で、それからのちいよいの奥様が若様を殺したに相違ないと決定して、今まで優しい方だ、美しい奥様だと誉めた者までが、継子殺しの鬼よ
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「気の毒なのはお福さ、心柄こころがらとは言いながら、あれじゃ江戸中に貰い手もあるまい」
心柄こころがらから、みずからくるしまなければならぬおろかしさをさとりました。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それは心柄こころがらで仕方がない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
同時に心柄こころがらなる身の末は一体どんなになってしまうものかと、いっそ放擲ほうてきして自分の身をば他人のようにその果敢はかない行末ゆくすえに対して皮肉な一種の好奇心を感じる事すらある。
退引ならずとは言いながら、米友としては心柄こころがらにあるまじき仕事と見なければなりますまい。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)