御爺おじい)” の例文
御米が茶の間で、たった一人裁縫しごとをしていると、時々御爺おじいさんと云う声がした。それはこの本多の御婆さんが夫を呼ぶ声であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
修行時代しゅぎょうじだいには指導役しどうやく御爺おじいさんがわきから一々面倒めんどうてくださいましたかららくでございましたが、だんだんそうばかりもかなくなりました。
今度はゾラ君の番であります。御爺おじいさんが年の違った若い御嫁さんを貰います。結婚は致しましたが、どう云うものか夫婦の間に子ができません。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「とうとうって来たのね、御婆おばあさんも。今までは御爺おじいさんだけだったのが、御爺さんと御婆さんと二人になったのね。これからは二人ふたありたたられるんですよ、貴夫あなたは」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう一遍大袈裟な言葉を借用すると、同じ人生観を有して同じ穴から隣りの御嬢さんや、向うの御爺おじいさんをのぞいているに相違ない。この穴を紹介するのが余の責任である。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
墓はいつ頃出来たものかしかとは知らぬが、何でも浩さんの御父おとっさんが這入り、御爺おじいさんも這入り、そのまた御爺さんも這入ったとあるからけっして新らしい墓とは申されない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叔父はじゃ御婆おばあさんだけ残して、若いものがそろって出かける事にしようと云った。すると叔母が、では御爺おじいさんはどっちになさるのとわざと叔父に聞いて、みんなを笑わした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとこれも江戸っ子である。御爺おじいさんも御爺さんの御父おとっさんも江戸っ子である。すると浩さんの一家は代々東京で暮らしたようであるがその実町人でもなければ幕臣でもない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この庭には奇麗きれいなローンがあって、春先の暖かい時分になると、白いひげはやした御爺おじいさんが日向ひなたぼっこをしに出て来る。その時この御爺さんは、いつでも右の手に鸚鵡おうむを留まらしている。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浅草から牛込へうつされた私は、生れたうちへ帰ったとは気がつかずに、自分の両親をもと通り祖父母とのみ思っていた。そうして相変らず彼らを御爺おじいさん、御婆おばあさんと呼んでごうも怪しまなかった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
全く器械的にしゃべってる御爺おじいさんとしか思われなかった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今じゃあなたより御爺おじいさん御爺さんしていますよ
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)