むだ)” の例文
一寸奥の六畳へ行って徳に逢ってやっておくれ、徳が今日はお白粉しろいけて待っていたのだから、お前に逢わないと粧けたお白粉がむだになってしまう
「えい、奥様を見付けたのでございます。方々探して知れなかったも道理、こんな処に隠れていらっしゃるんだもの、今日の御足おみあしむだにはなりませなんだ。いかがはからいましょう。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さうへせえすりやえゝつちのになあ、おとつゝあは」おつぎは落膽がつかりしたやうにいつた。内儀かみさんとおつぎはうして熟睡じゆくすゐした身體からだ直立ちよくりつせしめやうと苦心くしんするほどむだちからつくしたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
黄昏の頃油揚坂より続々として曳出ひきいだす、馬車、腕車数十輛、失望、不平、癇癪かんしゃくなどいう不快なる熟字を載せたるは、これ貴婦人の帰途かえるさにて、むだになりたる百余俵の施与米を荷車に積みて逆戻り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)