弥増いやま)” の例文
ゆゑに幾日の後に待ちて又かく聞えしを、この文にもなほしるしあらずば、彼は弥増いやまかなしみの中に定めて三度みたびの筆をるなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そそ……その目的を押付けようとすればする程……その思いが募って……弥増いやまして来て……もうもう一日も我慢が……で……出来なくなって来たんだ
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
われその身の衰行おとろえゆくを知るにつけて世をいとふの念押へがたく日に日に弥増いやまさり行くこそ是非なけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
苦悶くもんはいよいよ勝るのみ、されど、しょうあながちにこれを忘れんことを願わず、いななつかしの想いは、その一字に一行に苦悩と共に弥増いやますなり。懐かしや、わが苦悶の回顧。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
彼女のために心尽くしをすればするほど、彼女への恋は弥増いやましてゆくばかりであった。
「粋とはれて浮いた同士どし」が「つひ岡惚おかぼれの浮気から」いつしか恬淡洒脱てんたんしゃだつの心を失って行った場合には「またいとしさが弥増いやまして、深く鳴子の野暮らしい」ことをかこたねばならない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
私はむらむらして——然し一時いっときも早く心の平静を取り戻したいと思ふので、素早く大の字なりに倒れてしまふが、寝てみると沸々と湧く癇癪は弥増いやましにたかぶるやうで——私は騒がしく跳ね起きて
あるときは剃刀で喉を突こうとした。これには父も持て余したばかりか、片輪の子ほど可愛さも不憫さも弥増いやまして、かの奉公人ふたりと相談の上で、娘の恋しがる男を引っかついで来ることにした。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その翌日の競馬はそれに弥増いやました景気でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同時に若先生が家出をされた原因もわかったような気がして、若先生に対するなつかしさがたまらなく弥増いやました。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
終日ひねもす灰色に打曇りて、薄日をだにをしみてもらさざりし空はやうやく暮れんとして、弥増いやます寒さはけしからず人にせまれば、幾分のしのぎにもと家々の戸は例よりも早くさされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)