幾片いくへん)” の例文
復一は急いで眼口を閉じたつもりだったが、牡丹ぼたん桜の花びらのうすら冷い幾片いくへんかは口の中へ入ってしまった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
権利のないものに存在を許すのは実業家の御慈悲おじひである。無駄口をたたく学者や、蓄音機の代理をする教師が露命をつなぐ月々幾片いくへんの紙幣は、どこからいてくる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きりがふっと切れました。の光がさっとながれて入りました。その太陽たいようは、少し西の方にってかかり、幾片いくへんかのろうのような霧が、げおくれて仕方しかたなしに光りました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さっきから台所でことことやっていた二十はたちばかりのの大きな女がきまりわるそうに夕食をはこんで来た。そのげたうすぜんにはした川魚をわん幾片いくへんかのえた塩漬しおづけの胡瓜きゅうりせていた。
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)