年恰好としかっこう)” の例文
お千代はこの老婆の目にとまった。その年恰好としかっこうから見ても、遊びあきて悪物食あくものぐいのすきになったお客には持って来いというたまだとにらんだのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
主婦と云うのは、眼のくぼんだ、鼻のしゃくれた、あごと頬のとがった、鋭い顔の女で、ちょっと見ると、年恰好としかっこうの判断ができないほど、女性を超越している。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折角せっかく面白いものを見せて上げようと云うのじゃないか。目々めんめいて、ホラ、よくごらん。可哀相にあの娘さんも、丁度お嬢さんと同じ位の年恰好としかっこうだね。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
キヨ子さんといって、マア坊と同じくらいの年恰好としかっこうで、せて、顔色の悪い、眼のり上ったおとなしい娘さんだ。僕たちは、ちょうど朝ごはんの最中だった。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もっとも今は四十以上の年輩になっている訳で、ちょうど貴方位の年恰好としかっこうだろうと思われるのですが
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ついぞ剃刀かみそりをあてたこともないらしいひげだらけな顔の、閉じた眼瞼へ月がさしているのを見ると、痩せて、垢だらけになっているので、年恰好としかっこうの判断もつかないけれども
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
以前の衛門督えもんのかみの妻でございました私の妹の尼は、一人より持っておりませんでした女の子をなくしましてから時はたっても、悲しみに沈んでおりましたのが、同じほどの年恰好としかっこうではありましたし
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
貼紙はりがみをして逃げていったときには四十歳ぐらいの年恰好としかっこうに見えた。
五階の窓:05 合作の五 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「当てっこをしましょうや、——年恰好としかっこう、身分身装みなり
全部をおかみに捧げ切ると、人間は、顔の特徴も年恰好としかっこう綺麗きれいに失ってしまうものかも知れません。
東京だより (新字新仮名) / 太宰治(著)
その頃国家老くにがろうにやはり才三くらいな年恰好としかっこうなせがれが有って、このせがれがまた帯刀の娘に恋慕れんぼして、是非貰いたいと聞き合せて見るともう才三方へ約束が出来たあとだ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年恰好としかっこうだのを、相当問題にしたがるのだけれども、今度はそう云うことにも余りこだわらず、どうせ一遍東京へ帰らなければならないのだから、皆で大垣まで送って来てくれるなら
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
同じ年恰好としかっこうの老婆、小さく痩せていて胸が鎧扉よろいどのようにでこぼこしている。黄色い肌で、乳房がしぼんだ茶袋を思わせて、あわれである。老夫婦とも、人間の感じでない。
美少女 (新字新仮名) / 太宰治(著)