川楊かわやなぎ)” の例文
青い田の中を蝙蝠傘こうもりがさをさした人が通る、それは町の裏通りで、そこには路にそって里川が流れ、川楊かわやなぎがこんもり茂っている。森にはせみの鳴き声がかまびすしく聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ある川のふちの泥の中にころがりながら、川楊かわやなぎの木の空を見ていると、母親の裙子くんしだの、女の素足すあしだの、花の咲いた胡麻ごま畑だのが、はっきりその空へ見えたと云うのだが。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
両岸は川楊かわやなぎの古木の林になっていて、ちょうどそのこずえが旅館の庭の、緑の芝生と平らであった。
此処では河が二股に岐れて中央に島が横たわり、島は細かい砂に蔽われて、二かかえもある大きなドロヤナギや川楊かわやなぎなどが鬱蒼と茂っているし、それに交ってつが白檜しらべや唐松などもありました。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
追々と開けて来る梓川の河原に林をなして生え茂ったドロ柳や川楊かわやなぎのしなやかな枝葉が河風に翻るのを美しと眺めて、足触りの柔い原始林の道を一直線に辿り、徳本とくごう峠の道と合してから
川筋には青いあしが、隙間すきまもなくひしひしと生えている。のみならずその蘆の間には、所々ところどころ川楊かわやなぎが、こんもりと円く茂っている。だからその間を縫う水のおもても、川幅の割には広く見えない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
土を食い虫を食い口が渋くなったということを、彼もまた中国の田舎の方言を以てかたっていたのである。画眉鳥ほおじろが杉や川楊かわやなぎなどの最上端にとまって、青い天地を眺めつつ啼く声まで、我々には
が、彼は土と血とにまみれて、人気のない川のふちによこたわりながら、川楊かわやなぎの葉が撫でている、高い蒼空あおぞらを見上げた覚えがある。その空は、彼が今まで見たどの空よりも、奥深く蒼く見えた。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この平地が次第にゆるい斜面をつくって、高粱と高粱との間を流れている、幅の狭い濁り川が、行方ゆくてあかるく開けた時、運命は二三本の川楊かわやなぎの木になって、もう落ちかかった葉を低いこずえに集めながら
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)