いただき)” の例文
それから暫く嶮しい坂になつて、登り果てた所は山ならばいただき、つまりこの三浦半島の脊であつた。可なり広い平地で、薩摩芋と粟とが一杯に作つてある。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
何の風情もない、饅頭笠まんぢうがさを伏せた様な芝山で、逶迤うねくねしたみちいただきに尽きると、太い杉の樹が矗々すくすくと、八九本立つてゐて、二間四方の荒れ果てた愛宕神社のほこら
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
中仙道は鵜沼うぬま駅を麓とした翠巒すいらんの層に続いて西へとつらなるのは多度たどの山脈である。鈴鹿すずかかすかに、伊吹いぶきは未だに吹きあげる風雲のいのしし色にそのいただきを吹き乱されている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そうか知らん——いつぞや、白衣結束びゃくえけっそくで、白馬のいただきに登って、お花畑に遊んだような覚えがある。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近来はヒマラヤ山いただきの天文台で、極めて鋭敏な写真機を以て天を写すのだから、よほど早く分かりはするが、それでも火星人の方が更に早い、いつでも我が地球へ注意してくれる。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
いただきに建てる燈台の光は疾く夕庚ゆふづつとかがやきを争はむとす。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「会堂が那処あそこに建つ!」と、きつと西山のいただきに瞳を据ゑる。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)