山籠やまごも)” の例文
「物見の者も、あの大暴風雨おおあらしでは、歩むにも歩めず、どこかへ山籠やまごもりいたしたものでしょう。——が、今朝は、見えるに違いない」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは、よい本をお持ちでした、万葉集一巻あれば、三年この山籠やまごもりをしていても、飽きるということはありますまい」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水垢離みずごりと、極度の節食と、時には滝にまで打たれに行った山籠やまごもりの新しい経験をもって、もう一度彼は馬籠の駅長としての勤めに当たろうとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其に今一つ、既に述べた女の野遊び・山籠やまごもりの風である。此は専ら、五月の早処女さおとめとなる者たちの予めする物忌みと、われ人ともに考えて来たものである。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「まだ今年じゅうは山籠やまごもりのお誓いがしてあって、お帰りの際に京までお送りしたいのができませんから、かえって御訪問が恨めしく思われるかもしれません」
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
……あれはたまごいの験者げんじゃどもが、どこぞの山へ、山籠やまごもりの行に出掛けて行くのだ。誰やら神隠しにでもうた人々のあくがれ迷う魂を尋ねて、山へ呼ばいに行くところなのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
が、あちらのは、風説うわさにも聞きますれば、てまえも見ました、と申しますのが、そこからさまで隔てませぬ、石動の町をこの峠の方へ、人里離れました処に、山籠やまごもりを致しております。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある時、ヒョックリと現われた湯川氏は、赤い毛布ケットをマントのように着て手拭てぬぐい咽喉のどのところに結びつけていた。山籠やまごもりから急に自分の家にもゆかず長谷川うじをたずねて来たのである。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
アルプス小屋に住んでいる山籠やまごもりの一家のことで、小さな小屋の中にサンタクロスに似た髯を持った老人を囲んで、男女、八人の家族が思い思いに針仕事をしたり薪を割ったり、鏡の手入れをしたり
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山籠やまごもりしていた禅師ぜじなどを呼びにやって加持して貰った。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二年越しの山籠やまごもりの生活を僧都は語ってから
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あれは山籠やまごもりに行く行者どもの呼ばい声だぞ! 君が小鳥の声と聞いているのはあれは鈴のだ! 君は気が狂っているんだ! 恋のために気が狂っているんだ! 君とはもう今日限り絶交だ! 清原だってもう君とは手を
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)