屋台店やたいみせ)” の例文
健三は昔しこの人に連れられて寄席よせなどに行った帰りに、能く二人して屋台店やたいみせ暖簾のれんくぐって、すし天麩羅てんぷら立食たちぐいをした当時を思い出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はその多少、オランダ風の屋台店やたいみせの前へ立って、その金色の球のなめらかな運動の美しさに見惚みとれたものである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
地元じもとさとはいうまでもなく、三近郷近在きんごうきんざいからもたいへんな人出ひとでで、あのせま海岸かいがん身動みうごきのできぬ有様ありさまじゃ。往来おうらいには掛茶屋かけちゃややら、屋台店やたいみせやらが大分だいぶできてる……。
現在は紳士でも屋台店やたいみせ暖簾のれんをかぶったことを、吹聴する者が少しずつできたが、つい近頃までは一杯酒をぐいと引掛けるなどは、人柄を重んずる者には到底できぬことであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何万坪テフ庭園の彼方かなた此方こなたに設けたる屋台店やたいみせを、食ひ荒らして廻はる学生の一群ひとむれ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
狭くるしい境内から門前へかけて一杯五厘の氷屋や、おでん、寿司の屋台店やたいみせがぎつしりとならんで、ぴいぴいいふ風船の音、物うりの呼び声などが砂ほこりのなかに堪へがたい騒ぎをする。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
東京にいても居酒屋や屋台店やたいみせへ飛込んではっさんくまさんとならんで醤油樽しょうゆだるに腰を掛けて酒盃さかずき献酬とりやりをしたりして、人間の美くしい天真はお化粧をして綾羅りょうらに包まれてる高等社会には決して現われないで
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)