小波さゞなみ)” の例文
誰れ見ねども膝もくづさず、時々鬢のほつれに小波さゞなみを打たせて、吐く息の深げなるに、哀れは此處こゝにも漏れずと見ゆ。主はぞ、是れぞ中宮ちゆうぐうが曹司横笛なる。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
湖が金色の針をちりばめたやうに、こまかに小波さゞなみをたててゐる。食堂の奥から油臭い匂ひがたゞよつて来た。夕暮の美しさは、ひとしほ、二人の男に考へ深いものを誘つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
その方が本当だ——かうしてあくがれてゐるのは表面に立つてゐる小波さゞなみのやうなものだ。恋とは美しき夢見て汚なきわざするものぞ。誰かかう言つたが、その汚なき業の方が本当なのだ。
赤い鳥居 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
湾内の小波さゞなみは大魚のうろこの様に日光を反射して白くきらきらと光つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
湖面は一たいに小波さゞなみが在ると見えて、曉とは云ひながら殊に仄白ほのじろかつた。そして水がずつと擴がつた向うの、布引あたりの山々は、明け急ぐ雲のけはひに包まれて、空との境を分明にしなかつた。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
いけあしそよぎにうつくしい小波さゞなみちました——ガラ/\茶碗ちやわんはチリン/\とひゞすゞに、女王樣ぢよわうさま金切聲かなきりごゑ牧童ぼくどうこゑへんじました——して赤兒あかごくさめ、グリフォンのするどこゑ其他そのた不思議ふしぎ聲々こゑ/″\
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼女は、小波さゞなみ一つ立たない池のおもか何かのやうに、落着いてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)