小兵こひょう)” の例文
小兵こひょうではあるが着飾らない程に身なりも整っておるし、一部でひどく悪口いうほど不縹緻ぶきりょうでもないし、才気を鼻にかける男とも見えない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田山白雲がよけいな心配までしてやっている時分に、法螺ほらの貝の手勢が、真黒くなって早くも右の小兵こひょうの長刀の男を取囲んでしまいました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やや小兵こひょうではあるが、色のあさ黒い、引緊った顔の持主で、同じ年ごろの友達仲間にも元気のよい若者として知られていた。
妖婆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
太刀物の具がはっきりしないばかりでなく、第一、楠正成という人は大兵だいひょうであったか、小兵こひょうだったか、それすら分りません。
誰が廻しているのだろう? 敏捷びんしょうらしい小兵こひょうの武士が、笑いながら棹をあやつっている。秦式部はたしきぶが曲芸をしているのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父の嘉明の小兵こひょうに似ず、六尺豊かな加藤式部少輔明成は、足摺あしずりして焦慮あせった。主がこの気もちだから、血気な士ははやりきって、何かというと殺気立った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
なかでも一番てれくさい思いをしていたのはリャボーヴィチという二等大尉で、これは眼鏡をかけ、山猫みたいな頬髯をぴんと生やした、小兵こひょうで猫背な将校だった。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その召連れて来た武功者は、聞えたる大力の大男でね、鶴見は反対に君のような——と言っては失敬だが、とにかく小兵こひょうな男であったそうだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
痩せッぽちで、小兵こひょうな体つきだった。顔も大きくない。頭もきれいに剃ってはいない。栗のイガだ。眼だけがするどい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、行手から旅姿、菅の小笠に合羽を着、足ごしらえも厳重の、一見博徒か口入れ稼業、小兵こひょうながら隙のない、一人の旅人が現われたが、笠を傾けこっちをかすと、ピタリと止まって手を拡げた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時、向うの室の床柱を背負って、さっきから少しも動かずに茫然ぼうぜんと事のなりゆきを見ていた小兵こひょうにして精悍せいかん、しかも左の眼のつぶれた男があったが
小兵こひょうな義経のからだが、いとど小さく見えた。頼朝は、見下ろして
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ見るたけ四尺あるやなしの小兵こひょうの男。竿に仕かけた槍を遣うこと神の如く、魔の如く、いなずまの如く、はやぶさの如し。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友の天性は小兵こひょう敏捷びんしょう。この網受けに割振わりふられるものは、まず槍の使い方を習わせられるのを常例とする。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
着物を着ていたんでは小兵こひょうの米友の肉の締りかげんはわからないが、着物を脱ぐとはじめてその筋肉の美観が現われる。名工の刻んだ四天王の木彫を見るような骨格肉附。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その駕籠わきには梯子を持った小兵こひょうの男、天から降ったか地から湧いたか、にわかに騒動の場へ現われて、多数の歩兵隊を相手に大格闘をした男が附いて門を出てしまったのは
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まして小兵こひょうながら健啖けんたんな米友が、この場合に五箇いつつの握飯を三箇みっつだけ食べて、あとを残すというようなことがあろうとも思われませんのです。けれども水は尽きてしまいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから鶴川では槍をよく使う小兵こひょうの男、それから猿橋へ来て橋へ吊されたものが前の足の早い奴で、また片手の無い奴、それを捉まえてみるとその夜のうちに消えてなくなる
米友の身体からだ小兵こひょうな上に背が低いことは申すまでもありませんが、肉附にくづきだとて尋常なみの人よりは少しせているくらいですから、夜なんぞは誰でもみんな子供だと思っています。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ、弁信の背中に背負っている笈が、いかにも大きいのに、弁信そのものが小兵こひょうの法師ですから、弁信が笈を負うのではなく、笈が弁信を背負って馬に乗っているように見えます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一その斬り手は大兵だいひょうではなかったこと、むしろ小兵こひょうの男で、覆面をしていたこと、斬った後に失策しまった! というような叫びを残して行ったこと、その声は細い声であったというようなこと
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ことに土方歳三は小兵こひょうであって、その働き自在。