富籤とみくじ)” の例文
併し、昔千両の富籤とみくじに当って発狂した貧乏人があったという話もあるのだから、松村が五万円に狂喜するのは決して無理ではなかった。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
商人あきんど富籤とみくじなどを買ふのは以ての外ですが、ろくに小遣もやらなかつた私にも罪がないとは申されません。——富札まで燒いての強意見こはいけんは藥が強過ぎたのです。
野郎、千両の富籤とみくじにでも当った気でいたのを、大番狂わせになったんですからね。はははははは。いや、万助ばかりじゃあねえ、わっしも実はがっかりしましたよ
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それにつけても、お金が欲しく、そろそろ富籤とみくじの当り番がわかったころだと思いますが、私のは、たしか、イの六百八十九番だったはずです。当っているでしょうか。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
贅沢ぜいたくな品の贈答はならぬとか、祝儀や不祝儀の宴会はいけないとか、富籤とみくじは禁ずるなどという、緊縮の布令ふれが出るばかりで、むしろ不況の度はひどくなっていった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この男がその壮遊をしたのは、富籤とみくじに当ったのではない。また研究心に促されてったのでもない。
「節句が過ぎて八日になったら、わたしゃ……いっそのこと富籤とみくじでも買った方がいいと思いますわ」
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
けれどもな、鰊や数の子の一庫ひとくら二庫、あれだけの女に掛けては、吹矢で孔雀くじゃくだ。富籤とみくじだ。マニラの富が当らんとって、何国どこへも尻の持ってきようは無えのですもの。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拙作「花の富籤とみくじ」を古川緑波ろっぱ君が上演、その前祝いを土地の待合で催したことがあったが、もうそろそろ酒が乏しく、サイレンが時々鳴き出す頃で、昭和十七年おぼろ夜
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そこで、たりない分を手に入れるつもりで富籤とみくじをやってる。何とかひと工夫しなくちゃならないんだからな。ただいい番号さえあてれば、これまでずいぶん儲かったんだがな。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
路傍ろぼうの淫祠に祈願をけたお地蔵様のくび涎掛よだれかけをかけてあげる人たちは娘を芸者に売るかも知れぬ。義賊になるかも知れぬ。無尽むじん富籤とみくじ僥倖ぎょうこうのみを夢見ているかも知れぬ。
「弓は射るもの当てるもの、江戸で引いても当らぬものは富籤とみくじぐらいじゃ。第一——」
従前の世情に従えば唯黙して其狂乱に屈伏するか、然らざれば身を引て自から離縁せらるゝの外に手段なかる可し。娘の嫁入は恰も富籤とみくじを買うが如し。あたるも中らざるも運は天に在り。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わしはもう、ドキドキしながら、まるで富籤とみくじでもく様な気持で、ソロソロと歩き出した。そして、穴蔵を半周したかと思う頃、冷い金属の棒が手に触れた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
下女のお六といふのは四十年配の地味な女で、お勝手のことの外は何んにも知らず、富籤とみくじのことさへ氣が付かないほどの鈍感で、これは物を訊いても何んの役にも立ちません。
富籤とみくじが当って、一家狂喜している様を、あるじ、あさましがり、何ほどのこともないさ、たかが千両、どれ銭湯へでも行って、のんびりして来ようか、と言い澄まして、銭湯の、湯槽ゆぶねにひたって
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そんなこつちやありませんよ。近頃大評判の谷中の感應寺かんおうじ富籤とみくじを買つたんですがね」
子供の時分、お婆さんから何度も聞かされた昔の富籤とみくじの話だ。千両とかの一番籤に当った奴が、嬉しさの余り気が狂ったという話だよ。非常な喜びは人間を気違いにするものだ。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「中には、海雲寺かいうんじ様の富籤とみくじが一枚入っているんです、鶴の一千二百三十四番のふだで」
徳川時代の富籤とみくじというものは、どんなに盛んなものであったか、これは書いていると際限もない事ですが、とにかく、幾度も幕令をもって禁止されながら、これが明治の初年まで続いて
「そうよ、富籤とみくじの時は、すっかり親分のお世話になっちゃったわねえ」
「それぢや、富籤とみくじか、無盡か、——まさか拾つたんぢやあるまいな」
「それじゃ、富籤とみくじか、無尽むじんか、——まさか拾ったんじゃあるまいな」
「萬一なんてことがあるものか、谷中の富籤とみくじぢやあるまいし」
「万一なんてことがあるものか、谷中やなか富籤とみくじじゃあるまいし」
内々は富籤とみくじまでも買っているといった山気やまきのある按摩あんまでした。
内々は富籤とみくじまでも買つてゐるといつた山氣のある按摩あんまでした。