いた)” の例文
しかも、この焼刃やきばの中には、母の真心まごころさえこもって居た。兄弟ふたりが、一心不乱になっていると、母は絶えず、仕事場へいたわりに来て
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「勿体ないおいたわりです。戦いに参っては病躯、陣後に帰っては、碌々ろくろく御恩に浴すのみで、何ひとつ、御奉公らしいこともならぬこの病骨へ」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村上義清の気の弱さを叱ったのもそれだし、敵の乱波にいたわりをかけたのもそういう心根が肚にすわっているからであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま演技をすました信長は、地に降りて疲れた馬をいたわっていた。馬は海から泳ぎ上がったように汗に光り、その全身から湯気をたてていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三年の間、彼は百姓をあわれいたわった。百姓は天地か父母のように視た。彼はまた、教学と文化の振興に努めた。児童も道を知り礼をわきまえた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸将は、詰所へさがって、まる三日間の緊張から解かれると、やれやれといいたげに、各〻、夕風に涼を入れて、家臣たちのいたわりにくつろいでいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の云い分を隣室で聞いていると、子のぼくには、父には母へのいたわりや愛情などはケチリンも無いように疑われた。
病人の半兵衛が主君へいたわろうと努めているおもりを、秀吉も同じように臣下の彼へつとめぬいているのであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常は病をいたわられて、季節変り、朝夕の寒暑にも、立ちどころに咳声せきを増し、よく熱など出す弱体が、この炎暑に、粗食をつづけ、兵や軍馬と共に歩み
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よくぞ思い切ってのがれてきたと、自分で自分の勇気をいたわるのであった。しいんと、冬の夜は冴え返っている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、この友をいたわるに、どんな誠意を捧げても捧げ足りないような気持でいっぱいな同僚たちは、彼の乞うままに、酒徳利を持って、またそッと出て行った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、黒田官兵衛が、そういっていたわったので、秀吉も急に案じられたものか、半兵衛のおもてへ眼をうつした。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淋しくはないか、と若い妻をいたわり思うのであった。元より沙弥しゃみの妻である。玉日は顔を振って、微笑んだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
護送役の二人の小吏も、途々みちみち、武松をいたわって、苛烈かれつふうは少しもない。武松もまた、餞別物せんべつものから持ち金まで、ことごとけてやって、あくまで淡々たるものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姉は妹の手をひき、その妹は、末の妹をいたわりつつ、石ころ道を爪さき立てて歩いた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何をいやる、まだ、こんな道に、いたわられる程、ばばは、耄碌もうろくしておらぬわいの」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて彼女を館の下屋しもやまで召つれて来た折には、客を伴うように、いたわり慰めた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いたわる方も、宥わられる者も、いまはおたがいに熱い眼をもち合っていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお、奉行の陳文昭ちんぶんしょうは、そうした公的な半面、ひそかに人をやって、獄中の武松をいたわった。武松は義人である、その行為は、もうに過ぎて惨酷な犯行を敢てしたが、心情愛すべきところもある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、寄りたかって、案じたり、いたわったりする。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、元康の眼は、いたわるようであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)