妖異ようい)” の例文
せいろんへ——無作法な笑い声のあいだから妖異よういな諸国語を泡立あわだたせて、みんなひとまず、首府コロンボ港で欧羅巴からの船を捨てた。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
われわれは、いかなる猟奇の男性も味わいえないほどの、極度の妖異よういを経験してきたのであります。あるときは深夜の墓地に死人と語りました。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
男も女も、一応妖異よういに対する恐怖心を起しかかったが、それは慾心によって簡単に撃退された。開いた鞄の中のすごい内容物はあらゆる問題を解決した。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蝙蝠こうもりのごとくげあがっていた蚕婆かいこばばあが、呂宋兵衛あやうしと見て、例の妖異よういくちびるから、ふくみばりを吹いたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狐狸こり妖異よういや、鳥のつらをした異形の鬼魅きみ、そのほか外道げどう頭とか、青女あおおんなとか、そういった怪物あやしものが横行濶歩する天狗魔道界の全盛時代で、極端に冥罰めいばつ恠異かいいを恐れたので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この場合、自分の家へ帰るような態度で海の中へ踏み込んで往くこの女の後姿には、実になんともいえない妖異よういを感ぜざるをえなかったというが、そりゃそうだろう。
そして女は極めて緩く鈍く薄笑いに笑った。それは笑いというべきものであったか、何であったか分らぬ、如何なる画にも彫刻にも無い、妖異ようい凄惨せいさんなものであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
管弦楽では山の妖異よういの夜宴を描いた「禿山はげやまの一夜」が面白い。きわめて怪奇なものだが、手頃な交響詩だ。コロムビアのパレー指揮のレコードがすぐれている(J八三六五)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
三人は夢中になって徳利のかけらにとびかかり、一つ一つ手に取って念入りに調べた、だがそれらはいささかの瞞着まんちゃく機関からくりもない単なる徳利のかけらで、妖異よういを証明するなにものも存在しなかった。
するとこの夜陰やいん、おくの曲輪くるわにあたって、にわかにジャラン! ……と妖異よういかねのひびきがゆすりわたった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太鼓についで、静かに起こる弦楽の音、十数張りのバイオリンのかなでるこの世のものならぬ妖異よういのしらべ。それにつれて、裸女の森林をゆるがす大音響がわき上がった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あまりの妖異よういさに、長庵は暫時ざんじ声を失ったが、やがて、夢中に同じ言葉をわめき立てていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
妖異よういだ。夏なら知らず十二月、蛾が生きているはずがない——と思うと灯取ひとり虫、一つ一つのしょくをはたきまわって、殿中でんちゅうにわかにボーッと暗くなってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三人はあまりの妖異よういに、ものいうことも忘れて、ふらふらと、裸女の幹から幹へとさまよっていった。かれらの右ひだりを、白、桃色、キツネ色の、あらゆる曲線が送りまた迎えた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)