奥殿おくでん)” の例文
松をすかしてチラチラ見えるいくつものは、たち高楼こうろうであり武者長屋むしゃながやであり矢倉やぐら狭間はざまであり、長安歓楽ながやすかんらく奥殿おくでんのかがやきである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁々坊は熊手をあつかい、巫女みこは手綱をさばきつつ——大空おおぞらに、しょう篳篥ひちりきゆうなるがく奥殿おくでんに再び雪ふる。まきおろして
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いま、奥殿おくでんいたらずとも、真情まごゝろつうじよう。湖神こしんのうけたまふといなとをはからず、わたしきざはしに、かしはつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つやつやしい直線の大廊下をつきあたると、そこから奥殿おくでんきざはしになる。左右の境の坪には、甲冑かっちゅうの衛兵がみえた。高時のいるところもいまは鎌倉大本営のかたちなのだ。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめ、中次の侍たちは、それですこし渋っているやに見えたが、新兵衛の血相もただならずと思ったか、やがて一人が立って奥殿おくでんのにぎやかな大一座のほうへ廊を渡って行った。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)