大鳥おおとり)” の例文
青い空の中へ浮上うきあがったように広〻ひろびろと潮が張っているその上に、風のつき抜ける日蔭のある一葉いちようの舟が、天から落ちた大鳥おおとりの一枚の羽のようにふわりとしているのですから。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「……大鳥おおとりがひの山に、わが恋ふるいもはいますと人のいへば、岩根いわねさくみてなづみ来し、よけくもぞなき。現身うつそみとおもひしいもが、玉かぎるほのかにだにも見えぬ、思へば。」
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
天どんをあつらえて昼飯をすますが否や、二人は別々に貸間をさがし歩くことにして、その日の夕方荒物屋に帰って来た時、お千代のほう大鳥おおとり神社の筋向すじむかいの横町に米屋の二階をさがし当て
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
右書状には、二十面相は、本月二十五日深夜、大鳥おおとり時計店所蔵の有名な「黄金の塔」をぬすみだす決意をした。従来の実例によってもあきらかなとおり、二十面相は、けっして約束をたがえない。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
奥様が欄干越らんかんごしに、其の景色をおながめなさいまして、——あゝ、綺麗きれいな、此の白い雲と、蒼空あおぞらの中にみなぎつた大鳥おおとりを御覧——お傍にりましたわたくしうおつしやいまして——此の鳥は、かしらわたしかんざし
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いろいろな学者が「大鳥おおとりの」を枕詞まくらことばとして切り離し、「羽買山はがひやま」だけの名をもった山をいろいろな文献の上から春日山の附近に求めながら、いまだにはっきり分からないでいるようであります。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
少しへだたった所に、誰かの大きなおやしきがあって、万里ばんり長城ちょうじょうみたいにいかめしい土塀どべいや、母屋おもや大鳥おおとりの羽根をひろげた様に見える立派な屋根や、その横手にある白い大きな土蔵なんかが、日にてらされて
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すこしそれが露骨に出すぎている位で、いかにも情趣のふかい前の歌ほど僕は感動をおぼえません。でも、「大鳥おおとりがひの山」などというその山の云いあらわしかたには一種の同情をもちます。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)