大根おおね)” の例文
大根おおねはといえば好なんだから唐物屋なら唐物屋で、もっと給料を出すからといったところで、役者をやめて其方そっちへ行きやしません。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兄は私以上にききわけがなくて我儘なところもあったが、大根おおねは素直な性質であった。この座敷の違棚には木彫の鬼の念仏が飾ってあった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
実際女と云うものの身上が、いかに大根おおねがなくて弱々しいのかと笑っていたけれども、私も段々笑えなくなり始めました。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
皆、天然自然のしからしめるところであって、その根本たりとも衰えることはないと言えない。大根おおねの枯れさえなければ、また蔓延まんえんの時もあろう。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大根おおねを洗えばそれもこの噴水同様に殺風景なものかも知れない、いやもしそれがこの噴水同様に無意味なものであったらたまらないと彼は考えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにしても、おっしゃるとおり、だんだん枝葉が枯れてゆきませば、大根おおねを絶つのも難くはないと思いますれど——一がいに、根をねらい、末々を
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼女の言葉は婉曲えんきょくであるが、その腹の底ではお園が精神に異状を呈したのも大根おおね原因もとは私からの手紙に脅迫されたのだと思っているらしい口振りである。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
やっぱり牛は牛、馬は馬、たいそういいところ見せてくれたが、大根おおねはこいつも上方の落語家だったか。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
茲では白状して叔父に安心させ油断させて置いて、後で窃かに毒殺すれば好いと斯う大根おおねを括ったのだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
大根おおねは虚栄心であり、それがニンニクとパンとバターとの愛によってささえられているのである。
如才ないといっても大根おおねでかれのような正直なものは……まえに「かれとはまた違った意味で」と菱川について特にそういった所以である……つねに菱川にけじめを喰った。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
久光公がおわさばこそ、かかる無惨の陰謀も企てられるが故に、久光公こそその大根おおね
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
喜十さんの問題なんずも一番の大根おおねの原因は田地が足りねえ所から来てるだから。
ぼたもち (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「この大根おおねとつかずであれ、——今に」
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なかなか承諾しなかったのだが、遂にうんと云ったのである。外剛内柔がいごうないじゅう大根おおねはやさしい人なのである。母親によく似たキューピーのような顔をした娘がいた。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
あれにはいろいろ複雑な事情もあり、また僕がもとから少し姉さんと知り合だったので、御母さんにも御心配をかけてすまないようですけれども、大根おおねをいうとね。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その垢のついたことをめでたく思い、さきのような会話にも「なごやかさ」「たのしさ」を感じるとすれば、私は市井しせいの平凡なものに民衆の大根おおねを感じているのだろう。
平凡な女 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「でも仕方がねえ。大根おおねは貴様から起ったことだ」と、平助はなだめた。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
東京を喰いつめて、満洲へのがれ、奉天で日本料理屋をはじめて成功した五十吉という男が、十五年ぶりで東京に帰って来たのを大根おおねにした話で、作者は、一日、この男に、浅草をあるいてみせた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
私はこうして腕まくりをして威勢のいい恰好はしているが、これは家業柄であって、大根おおねは平和愛好者である。決して喧嘩の常習犯ではないということを私は極力主張した。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
けれども私はもともと事の大根おおねつかんでいなかった。奥さんの不安も実はそこにただよう薄い雲に似た疑惑から出て来ていた。事件の真相になると、奥さん自身にも多くは知れていなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そも/\の大根おおねから間違って来ているんだ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
大根おおねの気性がさっぱりしていたからであろう。なにかというとすぐ「馬鹿野郎。」と大喝一声だいかついっせいした。祖父はたいへん毛深いたちで、とりわけてひげが濃かった。すこし剃刀かみそりを怠ると恐い顔になる。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
やっと自分を苦しめる不安の大根おおね辿たどりついた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人が衝突する大根おおね此所ここにあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)