大日如来だいにちにょらい)” の例文
旧字:大日如來
本地垂跡ほんじすいじゃくなぞということが唱えられてから、この国の神は大日如来だいにちにょらい阿弥陀如来あみだにょらい化身けしんだとされていますよ。神仏はこんなに混淆こんこうされてしまった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これまではいわゆる両部混同で何の神社でも御神体は幣帛へいはくを前に、その後ろには必ず仏像を安置し、天照皇大神は本地ほんじ大日如来だいにちにょらい八幡大明神はちまんだいみょうじんは本地阿弥陀あみだ如来
と、うながされて、権之助と伊織とは、二人きりでひろい伽藍がらんの中へ坐った。仰ぐと、台座からなお一丈の余もある金色こんじき大日如来だいにちにょらいが、天井で微笑をふくんでいた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
院は姫宮の心情を哀れにお思いになっていた。かねての計画のように五十か寺での御誦経ずきょうが最初にあって、法皇のおいであそばされる寺でも大日如来だいにちにょらいの御祈りが行なわれた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
あの教はこの国の土人に、大日孁貴おおひるめむち大日如来だいにちにょらいと同じものだと思わせました。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
湯殿山の行者が大日如来だいにちにょらいの堂を建立した大円寺の縁日で、ふとおもかげの似た若侍とゆきずり、そこは、こんなことには特に頭の働くお藤なので、おや! 似ているぞ! とてとると同時に
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大日如来だいにちにょらいと書いた木札が建ててある、私たちの一行より、二十日も前に登山した土地測量技師や、昨年登山した東京の人たち、山麓蘆安あしやす村でよく聞く名の森本某、名取某の名刺が散らばっている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一切のからが今はかなぐり捨てられた。護摩ごまの儀式も廃されて、白膠木ぬるでの皮の燃える香気もしない。本殿の奥の厨子ずしの中に長いこと光った大日如来だいにちにょらいの仏像もない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自身でのりの霊場を世間以上に俗化したり、国家からうけた特別な待遇を腐敗させたり、また世人の魂のを踏み消してしまいながら——なお金色の大日如来だいにちにょらいかたちだけにすがって
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清子は、大日如来だいにちにょらい御前みまえに、長いことぬかずき、また、地蔵菩薩の宝前ほうぜんに、香や花をささげ、地蔵経一巻を声ひくくんで、いつものように、杉木立の小道を、やかたの方へもどって来た。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本殿の奥の厨子ずしの中には、大日如来だいにちにょらいの仏像でも安置してあると見えて、参籠者はかわるがわる行ってその前にひざまずいたり、珠数をつまぐる音をさせたりした。御簾みすのかげでは心経しんぎょうも読まれた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『……ああ! 大日だいにち。……大日如来だいにちにょらい