夜逃よにげ)” の例文
くだいてへば、夜逃よにげ得手えてでも、朝旅あさたび出來できない野郎やらうである。あけがた三時さんじきて、たきたての御飯ごはん掻込かつこんで、四時よじ東京驛とうきやうえきなどとはおもひもらない。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
枳園は阿部家をわれて、祖母、母、妻かつ、生れて三歳のせがれ養真の四人を伴って夜逃よにげをしたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女髪結は浮気うわきな亭主の跡を追って、夜逃よにげ同様にどこへか姿をかくしてしまったので、行きどころのないおたみはそのまま塚山さんの妾宅しょうたくに養われてその娘のようになってしまった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
敬吉の上京は夜逃よにげに近いものであつた。上京したら早稲田へでも、入学しようと云ふやうな、明るい希望が、動いて居ないでもなかつたが、彼の出立は、誰人だれにも送られない程淋しかつた。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
知らぬ人が見たら医者が失敗しくじって夜逃よにげをする途中だと思うかも知れない。
枳園は江戸でしばらく浪人生活をしていたが、とうとう負債のために、家族を引き連れて夜逃よにげをした。恐らくはこの最後の策にづることをば、抽斎にも打明けなかっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
枳園の形装ぎょうそうは決してかつて夜逃よにげをした土地へ、忍びやかに立ち入る人とは見えなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)