夜延よなべ)” の例文
わっちが弟子に来た時分は釘一本他手ひとでにかけず、自分で夜延よなべに削って、精神たましいを入れて打ちなさったから百年経っても合口えいくちの放れッこは無かったが
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近常さんは、娑婆しゃば苦患くげんも忘れてしまって、ありしむかしは、夜延よなべ仕事のあとといえば、そうやって、お若い御新造さんのお酌で、いつも一杯の時の心持で。
瀬戸を過ぐれば秋の彼岸ひがん蚊帳かやを仕舞う。おかみや娘の夜延よなべ仕事が忙しくなる。秋の田園詩人の百舌鳥もずが、高い栗の梢から声高々と鳴きちぎる。栗がむ。豆の葉が黄ばむ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私ゃア今こう成ったッても、昔の事を忘れない為に、今でもこうやって木綿物を着て夜延よなべをしている位なんだ、それにまだ一昨年おとゝしの暮だっけ
うごすかい、さあ寝られません。総鎮守の風の音が聞えますね、玉川のながれは響きますね、遠くじゃあ、ばッたんばッたん機織はたおり夜延よなべでしょう、さみしいッたらありません。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伴藏は懶惰なまけものにて内職もせず、おみねは独りで内職をいたし、毎晩八ツ九ツまで夜延よなべをいたしていましたが、或晩あるばんの事しぼりだらけの蚊帳かや
一つつまずきながら、かまちへ上って、奥に仏壇のある、ふすまを開けて、そこに行火あんかをして、もう、すやすやとた、なでつけの可愛らしい白髪しらがと、すそに解きもののある、女中の夜延よなべとを見て、そっとまた閉めて
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怖いだろうがお前は酒を飲めば気丈夫になるというから、わたし夜延よなべをしてお酒を五合ばかり買っておくから、酔ったまぎれにそう云ったらうだろう
おじいさんは肱枕ひじまくらをして寝てみたり、いつにない夜延よなべをしたり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
回向院前の指物師清兵衛方では急ぎの仕事があって、養子の恒太郎が久次きゅうじ留吉とめきちなどという三四名の職人を相手に、夜延よなべ仕事をしておる処へ、あわてゝ兼松が駈込んでまいりまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)