はずれ)” の例文
がさがさに割られてとがり切った氷の破片が、ふくろの中で落ちつく間、私は父の禿げ上った額のはずれでそれを柔らかにおさえていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほとんど二年位してのことであった。元豊はわけがあって他村へいって夜になって帰っていた。円い明るい月が出ていた。村のはずれに王の家の亭園があった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
お勢は返答をせず、只何か口疾くちばやささやいた様子で、忍音しのびねに笑う声が漏れて聞えると、お鍋の調子はずれの声で「ほんとに内海うつ……」「しッ!……まだ其所そこに」と小声ながら聞取れるほどに「居るんだよ」。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ことりとも云わぬうちに、片寄せた障子しょうじに影がさす。腰板のはずれから細い白木のつつがそっと出る。畳の上で受取った先生はぽんと云わして筒を抜いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その往来はあくまでも長くって、あくまでも一本筋に通っている。歩いて行けばそのはずれまで行かれる。たしかにこの宿しゅくを通り抜ける事はできる。左右の家はさわれば触る事が出来る。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある時二人は城下はずれ等覚寺とうかくじという寺へ親の使に行った。これは藩主の菩提寺ぼだいじで、そこにいる楚水そすいという坊さんが、二人の親とは昵近じっこんなので、用の手紙を、この楚水さんに渡しに行ったのである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)