変物へんぶつ)” の例文
旧字:變物
善兵衛は若い時分から口の悪い男で、少し変物へんぶつで右左を間違えて言う仲間の一人であったが、年を取るとよけいに口が悪くなった。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
忠相もまた変物へんぶつ泰軒たいけんの性格学識をふかく敬愛して初対面から兄弟のように、師弟のようにいんように手をかしあってきた仲だったが
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
カーライルが始めて女皇じょこうに謁した時、宮廷の礼にならわぬ変物へんぶつの事だから、先生突然どうですと云いながら、どさりと椅子へ腰をおろした。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
変物へんぶつの先生には、変物の弟子がつくものと見える。この男、初対面の客に、色々な事をペラペラと喋るのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
善くをさむれども、内には事足る老婢ろうひつかひて、わづかに自炊ならざる男世帯をとこせたいを張りて、なほもおごらず、楽まず、心は昔日きのふの手代にして、趣は失意の書生の如く依然たる変物へんぶつの名を失はでゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中年ちゅうねんから風眼ふうがんわずらッて、つぶれたんだそうだが、別に貧乏というほどでもないのに、舟をがんとめしうまくないという変物へんぶつで、疲曳よぼよぼ盲目めくらながら、つまり洒落しゃれ半分にわたしをやッていたのさ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ありゃあはあ変物へんぶつだ」
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから、あの妙な事だが——水島にも似合わん事だと思うが、あの変物へんぶつの苦沙弥を先生先生と云って苦沙弥の云う事は大抵聞く様子だから困る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この降るのにたずねて来て、中二階の三段目から『時田!』と首を出したのは江藤えとうという画家えかきである、時田よりは四つ五つ年下の、これもどこか変物へんぶつらしい顔つき
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大きな茶筅髪ちゃせんがみの糸で巻いたところなど、さすがに有名な変物へんぶつだけあって、白絹の寝巻の袖ぐちを指先へ巻いて、しきりに耳垢みみあかを擦りとってはふっと吹いている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あの苦沙弥と云う変物へんぶつが、どう云う訳か水島に智慧ぢえをするので、あの金田の娘を貰ってはかんなどとほのめかすそうだ——なあ鼻子そうだな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)