売溜うりだめ)” の例文
旧字:賣溜
そこで、売溜うりだめ金の紛失して居た関係上、単なる強盗の所為であろうと見込みをつけて捜索に従事したのですけれど、やはり、徒労に終ったのでした。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
納戸へ通口かよいぐちらしい、浅間あさまな柱に、肌襦袢はだじゅばんばかりを着た、胡麻塩頭ごましおあたまの亭主が、売溜うりだめの銭箱のふたおさえざまに、仰向けにもたれて、あんぐりと口を開けた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売溜うりだめの十一円なにがしの金は、三百四十円ばかりの貯金の通帳と一所いっしょに、手提金庫の中にチャンと在ったのだから、それを目的の仕事とは思えない。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
莫斯科モスクワの小店なぞに切々せっせ売溜うりだめの金勘定ばかりして居るかみさんのマシューリナ、カテーリナならいざ知らず、世界のトルストイの夫人の挙動ふるまいとしては、よく云えばあまりに謙遜けんそん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それが意外に繁昌したので、どうやら子供達の冬着の支度も間にあつて、一つ二つの寝具も手に入れたが、今川焼が繁昌するのをよいことにして、亭主は店の売溜うりだめつかみ出してはのみあるくなど
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「こう老爺様じいさんまあ待ちねえ、婆様ばあさんちょいと。」と呼留めて、売溜うりだめの財布より銅貨四銭取出とりいだし、二人の手にわかち与えて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売溜うりだめ金子かねはいくらあろうと鐚一銭びたいちもんでも手出てだしをしめえぜ。金子で買ってしのぐような優長な次第わけではないから、かつえてるものは何でも食いな。寒い手合は、そこらにあるきれでも襯衣しゃつでも構わず貰え。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)