こぼ)” の例文
旧字:
わたくしは簡堂の墓を弔わんと欲して三田台町一丁目の正泉寺を尋ねたが、寺は既にこぼたれて小学校の校舎が建てられていた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下赤坂はかつてのとりでで、一時、ここは北条方に占領され、その湯浅勢に焼きこぼたれたのを修理し、また近ごろでは久子の兄
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楽器をこぼつものは社会から音楽を奪う点において罪人である。書物を焼くものは社会から学問を奪う点において罪人である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう祈祷きとうの壇はこぼたれて、僧たちもきわめて親しい人たちだけが残ってもそのほかのは仕事じまいをして出て行くのに忙しいふうを見せている。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは四世紀に晋の法顕ほっけんが参詣した当時、仏教の中心だった摩頭羅まずら国の名を塔の名と心得伝えたので、十七世紀のオーランゼブ王この地に入って多く堂塔をこぼったが
かの時代が帰りもしたらば、その日こそ、偶像こぼつことにも疲れ
たとえば、その家はこぼたれ、その樹はられ、その海は干され、その山は崩され、その民はほふられ、そのじょかんせられた亡国の公主にして、復讎の企図をいだいて、薪胆しんたんの苦を嘗め尽したのが、はりも忘れ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何故なにゆえなれば、仏蘭西の市民シトワイヤンは政変のために軽々しくヴェルサイユの如きルウブルの如き大なる国民的美術的建築物をこぼちはしなかったからである。
昔の方が風雅な山荘として地を選定してお作りになった家をこぼつことは無情なことのようでもありますが、その方御自身も仏教を唯一の信仰としておられて
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
阿毘達磨倶舎論あびだつまくしゃろん』にづ、いわく、〈太海中大衆生あり、岸に登り卵を生み、沙内に埋む、還りて海中に入り、母もし常に卵を思えばすなわちこぼたず、もしそれ失念すれば卵すなわち敗亡す〉
こぼってお山のそばへ堂にして建てたく思うのです。同じくは速くそれに取りかからせたいと思っています
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それに地所もあまりに川へ接近していて、川のほうから見え過ぎる、ですから寝殿だけをこぼって、ここへは新しい建物を代わりに作って差し上げたい私の考えです
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)