墨堤ぼくてい)” の例文
桜時さくらどきばかりの墨堤ぼくていでもあるまい。微醺びくんをなぶる夜の風、夏の墨堤をさまよったって、コラーという奴もあるめえじゃないか」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
墨堤ぼくていの桜が往年の大洪水以来次第に枯れ衰えたと同様に、ここもまた洪水の犠牲となったものか、あの川の改修工事以来駄目になってしまった。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
宿屋を引き上げて一同竹屋の渡しを渡り、桜のわくら葉散りかかる墨堤ぼくていを歩みて百花園ひゃっかえんに休み木母寺もくぼじの植半に至りて酒を酌みつつ句会を催したり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
江戸の地理は暗いといった自分に、墨堤ぼくていへ——とすすめて、この方面へ馬の鼻を向けたのは、門之丞だった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
待乳山まっちやまを背にして今戸橋いまどばしのたもと、竹屋の渡しを、山谷堀さんやぼりをへだてたとなりにして、墨堤ぼくてい言問ことといを、三囲みめぐり神社の鳥居の頭を、向岸に見わたす広い一構ひとかまえが、評判の旗亭きてい有明楼であった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「待乳沈んで、こずえ乗り込む今戸橋」などいったもの、河岸へ出ると向うに竹屋の渡し船があって、隅田川の流れを隔て墨堤ぼくていの桜が見える。山谷堀を渡ると、今戸で焼き物の小屋が煙を揚げている。
公務あるものは土曜日曜をかけて田舎廻りを為すも可なり。半日のかんぬすみて郊外に散歩するも可なり。むなくんば晩餐ばんさん後の運動に上野、墨堤ぼくてい逍遥しょうようするもあに二、三の佳句を得るに難からんや。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「拙者もよくは存じませぬが、まず墨堤ぼくてい……いかがで?」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時墨堤ぼくていの方角から、女の悲鳴が聞こえて来た。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同書に載せられた春の墨堤ぼくていという一篇を見るに
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)