ちり)” の例文
しかしきれいに掃除そうじをしようとするような心がけの人もない。ちりは積もってもあるべき物の数だけはそろった座敷に末摘花すえつむはなは暮らしていた。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夏の日にてらされて、墓地の土は白く乾いて、どんなかすかな風にもすぐちりが立ちさうである。わたしの記憶も矢張やはりこの白い土のやうに乾いてた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
例の巻きなみに、くるまれて、旋風がちりでも渦巻くように、ゴロゴロッと横にころがしてしまった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
味噌桶みそおけ、米俵、酒のかめ、塩鮭の切肉きりみ醤油しょうゆ桶、ほうきちり取り、油壺あぶらつぼ、綿だの布だの糸や針やで室一杯に取り乱してあり、弓だの鉄砲だの匕首あいくちだの、こうした物まで隠されてあるが
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちりも止めぬ神々しい——顔を仰いで、声をもらし涙を垂れました。
教室の硝子戸はちりにまみれて灰色にきたなくよごれているが、そこはちょうど日影がいろくさして、戸外ではすずめ百囀ももさえずりをしている。通りを荷車のきしる音がガタガタ聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)