地道じみち)” の例文
これから一つ地道じみちになって働らいてみようと思いましてね……どんなボロ新聞社でもいいから……イヤナニその……何です……僕を
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
政道は地道じみちである限りは、とがめの帰するところを問うものはない。一旦いったん常に変った処置があると、誰のさばきかという詮議が起る。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また地道じみちの商人やその他の平民に向って、折助は士分面をして威張り散らすことがあります。そうして折助は、大手を振って手柄顔をすることがあります。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近頃は文三に対しては気に障わる事而已のみを言散らすか、さもなければ同僚の非を数えて「乃公おれは」との自負自讃、「人間地道じみちに事をするようじゃ役に立たぬ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「じゃこの紺糸で地道じみちを踏んで行けば、その間にちらちら派手な赤い色が出て来ると云うんですね」と敬太郎は向うの言葉をみ込んだような尋ね方をした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
トーマス・マンの「魔の山」は、スウィスの豪奢な療養所内の男女患者の生活を描いているが、この手のこんだ心理小説も、結核とたたかう地道じみちな人々の人生を語るものではない。
『健康会議』創作選評 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
雪道ゆきみち地道じみちとの過渡期なるこの季節のこととて、例の家根から掻き落した雪が、まだそのままに高く積もって峻しい山となっていたり、すでに一部分それが除かれて、深い谷となっていたりして
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「お上さんの気前じゃ、地道じみちなことはとても駄目かも知れませんよ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「まあ、そんなことかも知れません。その連中には女でも手慰てなぐさみをする者がありますからね。地道じみちなことで無くしたのなら、師匠もそんなに叱る筈はありません。なにか悪いことをしたのでしょうね」
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
早く身を堅めて地道じみちに暮らさなければ母の名誉をけがす事になる。妹だって裸でお嫁入りもできまいといわれれば、わたし立派りっぱに木村の妻になって御覧にいれます。その代わり木村が少しつらいだけ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「どうか地道じみちな方へ変って貰いたいものですわね」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
吾輩一流のヨタやインチキを絶対に用いない地道じみちな、五分も隙の無い本格式の探偵法で、ドン底までネタをタタキ上げて、あの山羊髯をギャッと云わせてくれよう。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
合点がってんだ、どのみち危ねえ橋は渡りつけてるんだから、地道じみちを歩くのがばかばかしいくらいなもんだ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
したがって散文的の感があるのです。散文的な文章とは馬へも乗れず、車へも乗れず、何らの才覚がなくって、ただ地道じみちに御拾いでおいでになる文章を云うのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するとその友達が調戯からかい半分に、君のような剽軽ひょうきんものはとうてい文官試験などを受けて地道じみちに世の中を渡って行く気になるまい、卒業したら、いっその事思い切って南洋へでも出かけて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「俺はそんなつもりじゃねえんだ、手前にこの金を器用に使ってもらえば金の冥利みょうりにもなるし、罪ほろぼしにもなるんだから、それで手一杯に地道じみちな商売をして、世間に融通をしてもらいてえんだ」