地蔵尊じぞうそん)” の例文
旧字:地藏尊
松陰神社で旧知きゅうちの世田ヶ谷往還を世田ヶ谷宿しゅくのはずれまで歩き、交番に聞いて、地蔵尊じぞうそんの道しるべから北へ里道に切れ込んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
七、八けんさきの横町よこちょうから、地蔵行者じぞうぎょうじゃ菊村宮内きくむらくないが、れいの地蔵尊じぞうそん笈摺おいずる背負せおって、こっちへ向かってくるのが見える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずこの寺の門内にもよく在る地蔵尊じぞうそんを始め、迷信の可笑味おかしみを思い出させる淫祠いんしも、また文人風の禅味を覚えさせる風致も、共に神社の境内には見られない故でもあろう。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此処ここから中尊寺ちゅうそんじへ行く道は、参詣の順をよくするために、新たに開いた道だそうで、傾いたかやの屋根にも、路傍みちばた地蔵尊じぞうそんにも、一々いちいち由緒のあるのを、車夫わかいしゅに聞きながら、金鶏山きんけいざんいただき
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長い田圃路たんぼみちの真ん中まで来た時には、彼の足もさすがに疲れてすくんで、もう倒れそうになってきたので、彼は路ばたの地蔵尊じぞうそんの前にべったり坐って、大きい息をしばらく吐いていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それですから善女ぜんにょ功徳くどくのために地蔵尊じぞうそん御影ごえいを刷った小紙片しょうしへん両国橋りょうごくばしの上からハラハラと流す、それがケイズの眼球めだまへかぶさるなどという今からは想像も出来ないような穿うがちさえありました位です。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ム。近ごろ地蔵尊じぞうそんなろうている。母上のくだされたお守りの地蔵尊をお手本に」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵側の者は大逆無道の人といったりするが、そもそも、地蔵尊じぞうそんの申し子みたいなお方なのだ。けれど、この君へも、いつまで時がさいわいしてゆくだろうか。弓矢の人には、あしたがそのままの夕でない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)