たけ)” の例文
ガルールはたけり立って、猛然身構えようとしたが、ぐいと手梏を絞めつけられる痛みに、アッといって腰掛へへたばってしまった。
これを聞いた盗人たちは、今更のように顔を見合せたけはいでございましたが、平太夫へいだゆうだけは独り、気違いのようにたけり立って
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
前へ進みかけた虎は、そのまま大きく口をあけてたけりながら後肢で一寸立上ったが、直ぐに、どうと倒れて了った。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
おとなしくそこに寐よ。「アヱ、マリア」を唱ふることを忘るな。人の眠る時は鬼の醒めたる時なり。十字をりて寐よ。この鐵壁をばたけ獅子しゝも越えずといふ。
人か馬か形か影かと惑うな、只呪いその物のたけり狂うて行かんと欲する所に行く姿と思え。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでは阿賀妻が立ちあがって、白木の三方さんぼうをかかえるところであった。その上にのっている白と赤の大きなすみ餅がぱッと眼に映るのであった。集まったものは一度におーとたけった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
うしろ手にくくりあげると、細引を持ち出すのを、巡査おまわりしかりましたが、叱られるとなおたけり立って、たちまち、裁判所、村役場、派出所も村会も一所にして、姦通かんつうの告訴をすると、のぼせ上がるので
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、勇ましい大天使は勿論、たけり立った悪魔さえも、今夜はおぼろげな光の加減か、妙にふだんよりは優美に見えた。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おちぶれたりとは云え、身どもらは武士」彼は歯をかみならしてたけった
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
金応瑞きんおうずいは大いにたけりながら、青竜刀の一払いに行長の首を打ち落した。が、この恐しい倭将わしょうの首は口惜くやしそうにきばみ噛み、もとの体へ舞い戻ろうとした。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の奇蹟を行ふことは後代にルツソオのたけり立つた通り、彼の道を教へるのには不便を与へるのに違ひなかつた。しかし彼の「小羊たち」はいつも奇蹟を望んでゐた。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしだんだん云ひつのるうちに、お民は冷笑を浮べながら、「お前さん働くのが厭になつたら、死ぬより外はなえよ」と云つた。するとお住は日頃に似合はず、気違ひのやうにたけり出した。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なれど風はますます加はつて、焔の舌は天上の星をも焦さうずたけりやうぢや。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)