可愛いと)” の例文
重ねたが、真底から可愛いとしいと思われたのは、偶然にお逢いしたこの方ばかり。……それだのにこのお方死なれるのかしら?
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいえ。色恋ではないわいな。わたしゃシンカラ与一よっちゃんが可愛いとしゅうて可愛いとしゅうて……」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひき交換とりかへたとは事實まことか? ならば何故なぜこゑまでも交換とりかへなんだぞ? あのこゑがあればこそ、いだきあうたかひなかひな引離ひきはなし、朝彦あさびこさま歌聲うたごゑで、可愛いとしいおまへ追立おひたてをる。
此の冷泉に如才じよさいは露なけれども、まだ都慣れぬ彼の君なれば、御身が事可愛いとしとは思ひながら、返す言葉のはしたなしと思はれんなど思ひ煩うておすにこそ、咲かぬうちこそ莟ならずや
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
可愛いとしいおれの名は、さうだ。語り伝へる子があつた筈だ。語り伝へさせる筈の語部かたりべが出来て居ただらうに。——なぜか、おれの心は寂しい。空虚な感じが、しく/\と胸を刺すやうだ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そこでは母親に殘された小さい小供たちが多勢の女の手に、悲しそうな言葉で可愛いとしまれながら抱かれてゐた。總領の娘も其所に交ぢつて、障子の外へ出たり入つたりする人々を眺めてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
わしとても、體裁ていさいつくり、そなことをひはせぬ、とひたいは山々やま/\なれど、しき作法さはふは、もうおさらば! もし、わし可愛いとしうおもうてくださるか?「うん」と被言おッしゃるであらうがな。
そちより可愛いとしい者はないとか、そちのためなら国も棄てよう、木曽の館を出もしよう、日本の国は広くとも女の数は多くともそちより可愛い者はない、などと申されたお言葉も
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可愛いとしいおれの名は、そうだ。語り伝える子があった筈だ。語り伝えさせる筈の語部も、出来て居ただろうに。——なぜか、おれの心は寂しい。空虚な感じが、しくしくと胸を刺すようだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
おゝ、ロミオどの、可愛いとしうおもうてくださるがまことなら、其通そのとほ誠實せいじつうてくだされ。