取着とりつ)” の例文
とこわきの袋戸棚ふくろとだなに、すぐに箪笥たんす取着とりつけて、衣桁いかうつて、——さしむかひにるやうに、長火鉢ながひばちよこに、谿河たにがは景色けしき見通みとほしにゑてある。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうも困るな、こんな取着とりつ身上しんしょうで、そんな贅沢ぜいたく真似まねなんかされちゃ……。何だか知んねえが、その引物ひきものとかいう物をそうじゃねえか。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
乳母 チッバルトどのゝ死骸なきがら取着とりついておきゃってでござります。彼方あちかしゃるなら案内あんないをしませう。
お春の頬に取着とりつくにぞ、あと叫びて立竦たちすくめる、咽喉のんどを伝ひ胸に入り、腹よりせな這廻はひまはれば、声をも立てず身をもだ虚空こくうつかみてくるしみしが、はたとたふれて前後を失ひけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あ。」とばかりにいらへて姉上はまろび入りて、ひしと取着とりつきたまひぬ。ものはいはでさめざめとぞ泣きたまへる、おんなさけにこもりていだかれたるわが胸しぼらるるやうなりき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)