切支丹坂きりしたんざか)” の例文
「詳しい話は拙者のところへやって来給え、小石川の茗荷谷みょうがだにで、切支丹坂きりしたんざかを上って、また少し下りると、長屋門のイヤにかしいだのが目安だ……」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
竹早町を横ぎって切支丹坂きりしたんざかへかかる。なぜ切支丹坂と云うのか分らないが、この坂も名前に劣らぬ怪しい坂である。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一方にはその名さえ気味の悪い切支丹坂きりしたんざかななめに開けそれと向い合っては名前を忘れてしまったが山道のような細い坂が小日向台町こびなただいまちの裏へと攀登よじのぼっている。
青蛙堂せいあどう小石川こいしかわ切支丹坂きりしたんざか、昼でも木立ちの薄暗いところにある。広東カントン製の大きい竹細工の蝦蟆がまを床の間に飾ってあるので、主人みずから青蛙堂と称している。
……飛びたいにも、駈けたいにも、俥賃なぞあるんじゃない、天保銭の翼も持たぬ。破傘やれがさ尻端折しりっぱしょり、下駄をつまんだ素跣足すはだしが、茗荷谷みょうがだに真黒まっくろに、切支丹坂きりしたんざか下から第六天をまっしぐら。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小石川の切支丹坂きりしたんざかから極楽水ごくらくすいに出る道のだらだら坂を下りようとしてかれは考えた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼の先には、覆面ふくめんをしたお蝶の姿が見えました。そして、そこは例の切支丹坂きりしたんざか——
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孝助は新五兵衞と同道にて水道端を立出たちい切支丹坂きりしたんざかから小石川にかゝり、白山はくさんから団子坂だんござかりて谷中の新幡随院へ参り、玄関へかゝると、お寺にはうより孝助の来るのを待っていて
みち足らはざる心をもちて入日さす切支丹坂きりしたんざかをくだり来にけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
道の向側は切支丹坂きりしたんざかに通ずる坂の下口にて、旧丹後舞鶴の藩主牧野家の黒板塀、玄関先の老樹と共に四十年のむかしに変る所なければ、なつかしさのあまり覚えず歩を止む。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)