兼々かねがね)” の例文
兼々かねがね仰せられ候には、六十七万石の家国を失いつる折は、悪夢より覚めたらんが如く、ただすがすがしゅうこそ思い候え。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
兼々かねがね藤屋氏は経川の労作「マキノ氏像」のために記念の宴を張りたい意向を持っていたが、私の転々生活と共にその作品も持回わられていたので
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
したがつて私は昼間の編隊爆撃がこの工場地帯と分つたら五百メートルでも千米でも雲を霞と逃げだす算段にしてをり、兼々かねがね健脚を衰へさせぬ訓練までつんでをり
魔の退屈 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
御相談と申すはかの妾宅の一件御存じの如く兼々かねがね諸処心当りへ依頼致置いたしおき候処昨日手頃てごろの売家二軒有之候由周旋屋の手より通知に接し会社の帰途一応見歩き申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女の恋人である黄金仮面が——あの万能の巨人でさえも、兼々かねがね恐ろしい敵だと云っていた名前である。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
頼みの綱は兼々かねがねお約束の松王さまばかり、それも室町のあたりは火にはかからぬと思召おぼしめしてか、或いはまた相国寺の西にも東にも火の手の上っております有様では
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
家の奥座敷でお辻の死体をそれに入れる時「出し惜しみが急に気張つたのでお辻さんは風邪をひくわい」と兼々かねがね気まづかつた親類の一人が、わざと聞えよがしの陰口をきいた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
姫は白髪小僧の事は兼々かねがねお附の女中からくわしく聞いて知っていたが、今目の前に自分の名前と一緒にチャンと並べて書いてあるのを見ると、どうしても誰かの悪戯いたずらとしか思われなかった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「ほほう、内藤家の鏡氏、いやそれはご名門だ。お噂は兼々かねがね存じております。実は愚老は内藤様ご舎弟、森帯刀様へはお出入り致し、ご恩顧おんここうむっておりますもの、これはこれはさようでござったか」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したがって私は昼間の編隊爆撃がこの工場地帯と分ったら五百メートルでも千米でも雲をかすみと逃げだす算段にしており、兼々かねがね健脚を衰えさせぬ訓練までつんでおり
魔の退屈 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
頼みの綱は兼々かねがねお約束の松王さまばかり、それも室町のあたりは火にはかからぬと思召おぼしめしてか、或ひはまた相国寺の西にも東にも火の手の上つてをります有様では
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
宮川町のお梶どのと云えば、いかに美しい若女形わかおやまでも、足下にも及ぶまいと、兼々かねがね人のうわさに聴いていたが、そなたの美しさがよもあれ程であろうとは、夢にも思い及ばなかったのじゃ
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こりゃお留守なのが当り前だ。だが源兵衛さんはどうしても腹が癒えぬ。わたしが今日こそ年一日の暇を取って、訪にょうとは兼々かねがね知らしてあるのに。家へ行けば母御ばかりがぼんやり。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其処へ兼々かねがね勝頼の側姦の士と白眼視された長坂、跡部の両人がやって来た。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
兼々かねがねうまく秀吉の機嫌をとりむすび、よからう、日本が平定すると唐入だから怠らず用意しておけ、その方と清正両名が先陣だ、かう言つて、清正と二人、肥後を半分づゝ分けて領地に貰ひ
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)