仏間ぶつま)” の例文
旧字:佛間
僧が引込ひきこんだので三左衛門はそこへ草履ぞうりを脱いであがった。庵の内にはわらを敷いて見附みつけ仏間ぶつまを設けてあったが、それは扉を締めてあった。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お杉隠居は、さすがに、この大事が事実と分ると、こみあげる怒気を抑えて、仏間ぶつまに坐っていたが
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸外おもての方は騒がしい、仏間ぶつまかたを、とお辻はいつたけれども其方そっちを枕にすると、枕頭まくらもとの障子一重ひとえを隔てて、中庭といふではないが一坪ばかりのしツくひたたき泉水せんすいがあつて
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仏間ぶつまの次に主人の部屋があり、雇人たちは二階へ、お勝手口には下女のお徳が住んでおり、ささやかな離屋はなれには総領の大三郎がいる筈ですが、身体からだが悪くてこもっているので
陽暦の八月頃は蕎麦そばの花盛りで非常に綺麗きれいです。私はその時分に仏間ぶつまに閉じ籠って夕景までお経を読んで少し疲れて来たかと思いますとさっと吹き来る風の香が非常にこうばしい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女中は木之助を勝手口の方から案内し、ちょっとそこに待たせておいて奥へ姿を消したが、じきまた出て来て、さあおあがりな、と言った。木之助は長靴をぬいで女中のあとに従って仏間ぶつまにいった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
藤孝は、仏間ぶつまにはいって、信長の霊に誓の仏燈あかしを捧げ、その日に、黒髪をろしてしまった。
お辻がぜんを下げる内に、母親は次の仏間ぶつま着換きかへる様子、其処そこ箪笥たんすやら、鏡台やら。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふたりが御池殿おいけどのの一ト間に顔をそろえたとき、尊氏はまだ仏間ぶつまから出ていなかった。しかし、三名の密談となってからは、さして時をおかず、直義ただよしと師直とは、すぐ政所まんどころのほうへ出て行った。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)