乾酪チーズ)” の例文
色黄褐で香気はねぎ乾酪チーズまじえたごとし。だから屁にもちょっと似て居る。秋末、柳や白楊や樫の林下の地中また時として耕地にも産す。
いま二人が坐っている真下あたりの縁の下で、何かの死体蛋白たんぱく乾酪チーズのように醗酵しかけていることを、はっきりと、覚った。
昆虫図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
若し牛を飼ふとすれば、種を目的とするか、然らざれば、バタや乾酪チーズ、鑵詰などを製するまで行かなければうそだと考へた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
懇意な人たちが餞別であるといって蕎麦そば、パン、マルバター乾酪チーズ乾桃ほしもも、中にはカタと銀貨をくれた者も四、五名ございました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
自己ならびに過去を語るを好み、向上心に乏しく、安逸と独逸ドイツ風のビールと乾酪チーズをむさぼる。人を見ると名刺をつき出し、署名を求める癖あり。
踊る地平線:04 虹を渡る日 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
乾酪チーズの中で、いくら虫が動いても、乾酪が元の位置にある間は、気が付かないと同じ事で、代助もこの微震にはほとんど自覚を有していなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また乾酪チーズを一口ふくんで吐き出すとしても、そこいらにペッと唾をするではなく、人にわからぬように、そうっとたなごころに受けて、人知れず棄てるところなぞ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あるいは大きなスティルトン乾酪チーズのような、実に驚くべき帽子をかぶっているということを、ロリー氏があわてているうちにも認めた、一人の荒っぽそうな婦人が
東から北へと勾欄こうらんへついて眼を移すと、柔かな物悲しい赤と乾酪チーズ色の丘陵のうねりがのどかな日光の反射にうき出している隣に、二つのまるい緑の丘陵が大和絵さながらの色調で並んで
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そばへ寄るときっとラックフォルト乾酪チーズ酸菜サワクラウトのにおいのしそうな、伯林ベルリンドロティン・ストラッセ街から来た紳士がいるでしょう? あの肥った、そら
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
牛酪バター乾酪チーズ口当り次第平らげたので、住民途方に暮れ猫を多く育てたが、猫一疋に鼠二十疋という多数の敵を持ちあぐんで気絶せんばかりに弱り込んだ。
彼等は青年をテルソン銀行ロンドン商社に採用した時には、その青年が老年になるまで彼をどこかに隠しておく。彼等は彼を乾酪チーズのように暗い場所に貯蔵しておくのだ。
白楊ポプラの防風林をひかえた丘の蔭には牛乳を搾ったり牛酪バタ乾酪チーズをこしらえる「仕事場アトリエ」と呼んでいる三棟ばかりの木造の建物。雲の塊のような緬羊が遊んでいる広い牧場。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
乾酪チーズをあまり喜ばなかった。一口口にふくむと、ほろ苦い顔をして吐き出してしまった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
いうところの国民文化の高い国だけに何もかもが智的——智的インテリジェントな牛乳と智的な乾酪チーズ、智的な玉子と智的な——とにかく、ながらく表面から忘れられていた種族が
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
朱塗の大きな円卓えんたくをかこんで、格式張ったお役人ふうなのをひとりまぜ、大商賈おおどこの主人とも見える人体じんていが四人、ゆったりと椅子にかけ、乾酪チーズを肴に葡萄酒の杯をあげている。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
五日ほどののち、団六のところで将棋をさしながら、青木が、フト畳の上を見ると、乾酪チーズの中で見かけるあの小さな虫が、花粉でもこぼしたように、そこらいちめんウジョウジョと這い廻っていた。
昆虫図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)