しば)” の例文
汽車はしばらく停つてゐたが、暁方あけがたになつて出ると、間もなく飛ぶやうに走る。と、森の中のステーションへ来て停つたまゝ、なか/\出ない。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
彼は眼を皿のようにして、しばらく相手の顔をまじまじと見つめていたが、ようやく最後に、『それじゃあお前さまは、軍隊にお勤めになった方じゃごわせんのかい?』
今に伯母さんが——私のうちでは此家ここの夫人を伯母さんと言いつけていた——伯母さんが出て来ていように仕て呉れると、其を頼みにしていると、しばらくして伯母さんではなくて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ややしばらくして、今のは錯覚ではなかろうかと思い直す頃に、また一つどんと鳴った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しばらく眺めていたけれど、彼にはその人物がいったい男なのか女なのか、さっぱり分らなかった。
しばらく文壇を彷徨うろうろしているうちに、当り作が漸く一つ出来た。批評家等は筆を揃えて皆近年の佳作だと云う。私は書いた時には左程にも思わなかったが、然う言われて見ると、成程佳作だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お政が坐舗を出るやいなや、文三は今までの溜涙ためなみだを一時にはらはらと落した。ただそのまま、さしうつむいたままで、ややしばらくの間、起ちも上がらず、身動きもせず、黙念として坐ッていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
カテリーナ、俺もずゐぶんしばらく酔ひ心地にならなかつたやうだな。え?
しばらく藻掻もがいて居るうちに、ふと足掻あがきが自由になる。と、領元えりもとつままれて、高い高い処からドサリと落された。うろうろとして其処らを視廻すけれど、何だか変な淋しい真暗な処で、誰も居ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
間もなく誰かあわただしく玄関へ駈けこんだ気配がして、そこで何かしばらくごそごそやっているようだったが、やがて長靴の音がどたばたと近づいて来ると、扉があいて、プローシカが入って来た。
おそろしい思をしているのか? 恍惚うっとりとした顔に映る内のおもいが無いから、何を思ッていることかすこしも解らないが、とにかくややしばらくの間は身動をもしなかッた、そのままで十分ばかり経ったころ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)