不二ふじ)” の例文
稲ちゃんは不二ふじやでお菓子を買い、不二ふじやでコーヒーをのむのに(鶴さん)つき合って、それから市ヶ谷へ行ったら六時ごろです。
見るからに画家らしい二人の男は川口亜太郎とその友人の金剛蜻治こんごうせいじ、女は亜太郎の妻不二ふじ、やがて三人が岳陰荘の玄関に着くと
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
上河内岳の下には生木割なまきわり、少し離れて白峰山脈南半の盟主笊ヶ岳、千挺木せんちょうぎ、七面山。南には遠く不二ふじの高根、近く大菩薩の連山。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
さまれる物から不二ふじの峯かすかにみえて上野谷中うへのやなかの花のこずゑ又いつかはと心ほそしむつましきかきりは宵よりつとひて舟に乗て送る千しゆと云所いふところにて船を
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
日本には新婚旅行で来たんだそうな、例によって不二ふじ山のはなしが出たが、新婚旅行だけに果して登ってはいなかった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
鏡面には雲一つ見えない空に不二ふじに似た山が聳えている。それは不思議でも何でもない。けれどもその山は見上げる限り、一面に野菜におおわれている。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
藤田不二ふじ君がヴォルフ協会に対して、マッコーマックに歌わせるのは困ると言って抗議すると
おもて八句を庵の柱に懸置き、弥生やよひも末の七日、明ぼのゝ空朧々おぼろおぼろとして、月は有明にて光をさまれるものから、不二ふじの峰かすかに見えて、上野谷中やなかの花のこずえまたいつかはと心細し。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
溜池に枯れし柳もしだれけりみ冬はさき不二ふじのよく見ゆ (一三一頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霧時雨きりしぐれ不二ふじを見ぬ日ぞ面白き
闇への書 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
ひいでては不二ふじたけとなり
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何処どこからでも不二ふじ山が見えて、いつでも陽気のいいような、見え透いた虚言はつかないがいい。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
藤田不二ふじ氏の桐製のキャビネット説は確かに傾聴すべきで、日本などの家庭でも使っている桐の白木の箪笥が、あの通り衣服保存の役目を十分に果しているのでも分るように
駿河なる不二ふじ高嶺たかねをふり仰ぎ大きなる網をさと拡げたり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ほのしろき浅夜あさよ不二ふじなれ帆柱の高きは青きをぞけたる
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白妙の不二ふじ畔木あぜきはるに見て子らは犬追ふ霜田つづきを
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
古池に寒うしだれし枯柳向うに小さく白き不二ふじ見ゆ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)