一途いっと)” の例文
たとえば今のように問屋制度の如きが続くなら、窯の煙はだんだん細くなってゆく一途いっとだろう。製産者が下敷にされるにきまっているからである。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
是非得失を考え合わせ、一途いっとの政体相立て居き候処、念願にこれ有り、遊歴いたし国政の善悪を親察いたし候
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その男は百メエトルの満野でした。かつて吉岡が擡頭たいとうするまでの名スプリンタアではありましたが今度のオリムピックには成績も悪く、いまは凋落ちょうらく一途いっとにあったようです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その犯人の正体を指示して頂くこと……この一途いっとよりほかに方法は無い事に相成りました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
流すはつたなしこれはどうでも言文一途いっとの事だと思立ては矢もたてもなく文明の風改良の熱一度に寄せ来るどさくさ紛れお先真闇まっくら三宝荒神さんぽうこうじんさまと春のや先生を頼みたてまつ欠硯かけすずりおぼろの月のしずく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しからばすなわち、あに公平の法ととなうべけんや。これをもって政の要は、徳を先にして刑を後にす。徳のもとは教をもって人心を一にするにあり。明主は天下の心をもって一途いっとに帰せしむ。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
「道は一途いっと。このうえは直義と話がつくか、さなくば、一戦もぜひあるまい」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若し捕えようと思えば、町の群集はすべて味方だ、造作もないことである。併し、明智は一幽霊男の逮捕で満足はしない。賊の本拠を確かめたいのだ。あせる時ではない。気永にあとをつける一途いっとだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いずれ天下のまつりごと一途いっとで候ようこれ無く候ては、ただ一国一国の政事にては相済まぬと心付き、彼に長じ候処もこれ有り、ここに得たる処もこれ有るべく候に付き
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ゆがめられた工藝の姿を見ると、もう致命の傷からはえないように見える。血脈は沈む一途いっとである。誰かが生命の医薬をもたらさないなら、もうつことはできないであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)