見覚みおぼ)” の例文
旧字:見覺
平生へいぜい腰かがみて衣物きものすその引きずるを、三角に取り上げて前に縫いつけてありしが、まざまざとその通りにて、縞目しまめにも見覚みおぼえあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いったいだれだろうとおもって、かなたの往来おうらいはしってゆく少年しょうねんかおをながめましたが、まったく見覚みおぼえのない少年しょうねんでありました。
金の輪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほどなく一人ひとりのおじいさんの指導霊しどうれいれられて、よく見覚みおぼえのある、あのうつくしい敦子あつこさまがそこへひょっくりとあらわれました。
警官けいかんの顔を見て、それから見覚みおぼえのあるわたしを見つけると、ガロフォリは青くなって、ぎょっとしたようであった。
「おォ、おォ、亀之助ンとこの子供かい。どうりで見覚みおぼえがあると思った。暫く見ないうちに大きくなったもんだネ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが先生はしばらく沈吟ちんぎんしたあとで、「どうも君の顔には見覚みおぼえがありませんね。人違いじゃないですか」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして須利耶すりやさまは、たしかにその子供に見覚みおぼえがございました。最初さいしょのものは、もはや地面じめんたっしまする。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
するとそれはかねてお見覚みおぼえのある女鳥王めとりのみこのお持物もちものでしたので皇后はにわかにお顔色をお変えになり、この女にばかりはかしわの葉をおくだしにならないで
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
五日いつかばかり学校がくかうからかへつちやあ其足そのあし鳥屋とりやみせつてじつとつておくはうくらたななかで、コト/\とおとをさしてそのとりまで見覚みおぼえたけれど、はねへたねえさんはないのでぼんやりして
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あは見覚みおぼ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
墓地ぼちゆきまっていましたけれど、いさむちゃんは、見覚みおぼえがあったので、このしたにおねえさんがねむっているとおしえたのでした。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのとき空のかなたから忽然こつぜんとして現われたのは、見覚みおぼえのあるヘリコプター、しかも進路は万国堂の方向である。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
次の朝行きて見ればもちろんその跡方あとかたもなく、また誰もほかにこれを見たりという人はなかりしかど、その枕にしてありし石の形とりどころとは昨夜の見覚みおぼえの通りなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
には平袖ひらそで白衣びゃくいて、おびまえむすび、なにやら見覚みおぼえの天人てんにんらしい姿すがた、そしてんともいえぬ威厳いげん温情おんじょうとのそなわった、神々こうごうしい表情ひょうじょう凝乎じっわたくしつめてられます。
かれはわたしを見覚みおぼえていたが、中へ入れてはくれないで、両親はもうルイスへ向けて立ったから、急いであとを追っかけろと言って、もうすこしでもぐずぐずしてはいられないとせきたてた。
たいていのふねはみな見覚みおぼえがあるばかりでなしに、わたしよりみんなずっとふねとしわかいものばかりだ。ふるくていまから二十ねんうえふねはあるまい。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
仏は、そこへ並べられたバッグを見たが、一向見覚みおぼえがないものだった。記憶の消滅のなさけなさ。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はは枕辺まくらべには人間にんげんやくにんあまり、いずれもきはらして、ながわかれをおしんでいましたが、それ人達ひとたちなかわたくし生前せいぜんぞんじてりましたのはたった二人ふたりほどで、見覚みおぼえのない人達ひとたちばかりでした。
その子はなんだか見覚みおぼえがあるように思った。
「おまえさんたちは、どこからおいでになりました。わたしは、ちっとも見覚みおぼえがないが。」と、おばあさんはこたえました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほど頤髯あごひげ見覚みおぼえのある戸波博士が、帆村の手によって牛乳車の中から助け出されていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やはり海岸かいがんって、いっしんにおきほうていますと、なつかしい、見覚みおぼえのある仲間なかまっているふねが、なみってわんなかへはいってきました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はそれを下へ下ろし、開いても見たが全然見覚みおぼえのないものだった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うまは、またおばあさんのうちで、ながはたらいた、見覚みおぼえのあるうまでした。他人たにんわたってから、どうなったであろうと、つねにおもっていたうまでありました。
千羽鶴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「君たち夫婦の中で、この女の顔に見覚みおぼえのある者はいないかね?」
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれは、うなずきますと、おじいさんは、さきになってあるきました。やがて、見覚みおぼえのあるまちました。そこには、かれのよくいったカフェーがありました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
なかにどろがついているのや、あかいひもとしろいひもがついているのや、すべてに見覚みおぼえがありました。
西洋だこと六角だこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうおもうと、つぎからつぎと去年きょねんのことがおもされて、なつかしくなりました。もずは、野原のはらして、やまして、見覚みおぼえのあるむらへとんできました。
もずとすぎの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
佐吉さきちは、なんとなく、見覚みおぼえのあるおじいさんのようにおもいましたので、じっとそのかお見上みあげていますと
酔っぱらい星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、あの時計とけいについている、磁石じしゃく般若はんにゃめんは、子供こども時分じぶんから父親ちちおやむねにすがって、見覚みおぼえのあるなつかしいものだ。いまも、あのかざりだけはのこっている。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もりがあって、そのした人家じんかえるところへちかづいたときに、若者わかものは、勘太かんたじいさんが、あのやぶれた帽子ぼうしをかぶり、見覚みおぼえのある半纒はんてんて、股引ももひきをはいて
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自転車じてんしゃうえちいさなはこ舞台ぶたいなかには、見覚みおぼえのあるあかトラのていました。七、八にん子供こどもがあめをわなければ、おじさんは、説明せつめいをはじめないのがつねでありました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なかには、一ぴきのいぬが、わらのうえにはらばいになっていましたが、そのしろくろのぶちいぬを、どこかで見覚みおぼえがありましたので、からすは、じろじろといぬほうをながめていました。
からすとうさぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
小鳥ことりがどこまでもついていってくれるのをたよりにたびつづけられていますと、あるのこと、おひめさまは見覚みおぼえのあるおしろもりが、あちらにそびえているのをごらんになりました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
見覚みおぼえのあるからすのれは、あたまうえぎたのでした。そして、つばさのいたんだ、あわれなからすは今日きょうはみんなから、ずっとおくれて、わずかにそのれつくわわっていたのでありました。
翼の破れたからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
どんな汽罐車きかんしゃであるかしれないけれど、そんなことをしてしらぬかおをしているとは冷酷れいこく汽罐車きかんしゃである。わたしがいって不心得ふこころえをさとしてやるから、もし見覚みおぼえがあったらかしなさい。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
このとき、ふいに、まえうつくしい、やさしそうなおんながあらわれました。少年しょうねんは、びっくりしました。よく、つきかりでそのかおると、どこか見覚みおぼえのあるようながしました。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「この真珠しんじゅたまには見覚みおぼえがあるが、だれからもらった?」と、ききました。
一粒の真珠 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いったいあの少年しょうねん自分じぶんっているものだかだれだかとおもってちかづいてみますと、かつて見覚みおぼえのない、いろしろい、つきのやさしそうな、なんとなく気高けだかいところのある少年しょうねんでありました。
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
あかはたのなびいていると、ああ、それはここからたいへんとおみなみくにでありますよ。わたしが、たしかに見覚みおぼえがあります。しかし、そのまちぎたのは、三年前ねんまえでした。」と、薬売くすりうりはこたえました。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真吉しんきちは、たまらなくなって、しくしくとそでにかおをあてていたのでした。そのうちに汽車きしゃうごしました。だんだんはしると、いつか、見覚みおぼえのあるやままでが、ついにえなくなってしまいました。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「このこまどりに見覚みおぼえがあるか。」と、小僧こぞうに、たずねました。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むすめは、ある、そのまちなかあるいていました。いつかの人形屋にんぎょうやにゆこうとおもっていました。晩方ばんがたゆめのようにかすんだそらしたを、紫色むらさきいろひかりのさすみせさがしながら見覚みおぼえのある路次ろじはいってゆきました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「なんだか、見覚みおぼえのあるようなまつだな。」
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)