鮑貝あわびがい)” の例文
へっついは貧乏勝手に似合わぬ立派な者で赤の銅壺どうこがぴかぴかして、うしろは羽目板のを二尺のこして吾輩の鮑貝あわびがいの所在地である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
粮米が尽きてからは、島のさちで命をつないだ。雨はきまったように三日おきに降るので、大きな鮑貝あわびがいをいくつもならべ、足るほどに受けた。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と徳利を突出した、入道は懐から、鮑貝あわびがい掴取つかみとって、胸を広く、腕へ引着け、がんの首をじるがごとく白鳥の口からがせて
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鮑貝あわびがい杓子しゃくしの様にこしらえたものをたずさえて、街道に落ちて居る馬糞ばふん拾いをして歩いたものだ。
志摩しまの女王」と名づけられた、その道の人は誰でも知っている、日本随一の大真珠で、産地は志摩国大王崎だいおうざきの沖合、鮑貝あわびがい中から発見された珍らしい天然真珠、形は見事な茄子なす
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まずへっついの影にある鮑貝あわびがいの中をのぞいて見ると案にたがわず、ゆうめ尽したまま、闃然げきぜんとして、怪しき光が引窓を初秋はつあきの日影にかがやいている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外面そとは大方おぼろであろう。晩餐にはんぺんの煮汁だし鮑貝あわびがいをからにした腹ではどうしても休養が必要である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)