鬱懐うっかい)” の例文
伊籍は、さい夫人や蔡瑁が、劉琦をさしおいて、弟の劉琮を国主に立てたことを痛憤して、その鬱懐うっかいを、玄徳へ訴えに来たのであった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自らもその団体的娯楽によって鬱懐うっかいを散する場合には、なんらの弊害なく、低級なる三味太鼓のざんざめきで、馬鹿囃子をやる如き騒ぎをしても
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
仕るは狐のばけ、なれども日頃の鬱懐うっかいを開いて、思うままに舞台に立ちます、熊が穴を出ました意気込、雲雀ひばりではなけれどもにじを取って引くいきおいでの……
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういう鬱懐うっかいがあるので、烏丸中納言の館に上ったとき、つい思いが迫って、几帳の奥のひとに口説きかけたら、うれしく思います、という返事があった。
奥の海 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は、胸のうちの寂しさとむしゃくしゃした鬱懐うっかいとをもらすところのないままに、腕組をして、じっと考える。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これは現状維持の鬱懐うっかいがふくまれて居る様である。もう少し積極的表現のものとして
そういう無関心に対して鬱懐うっかいを強いるのもいさぎよくない心地がされるので、彼もまたそこまではいわずにただ杯をかさねていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つくえによって微吟し、そぞろに鬱懐うっかいをやるのてい
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
光悦もまた、真摯しんしに聞いてくれる語り相手を見出して、鬱懐うっかいの至情を吐きつくすように——去るに忍びない面持おももちで夜空と寂土の万象を四顧しながら
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眺め得たのはむしろ望外なことだ。胸中の鬱懐うっかいも焼き放つような心地がするぞ。……あの馬鹿者が、どんなにあわてて
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、そう飲んだくれとばかり思うているから困る。平常の酒は、鬱懐うっかいをはらすために飲むのだ。今夜はその鬱懐もいっぺんに散じて、愉快でならない吉報を
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬岱ばたい軍は雅丹がたん宰相を生捕りにし、関興は恨みかさなる越吉元帥を馬上一刃のもとに斬って、鬱懐うっかいをはらした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ウム、入念だな。多年の鬱懐うっかいもこの一瞬に晴らすか。そのせいかあの雲、血のように筑波つくばの空を
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
として以下、ひとつ何々、ひとつ何々の事というふうに、信長が日ごろ義昭にいだいている不満、苦情、鬱懐うっかいなどのかずかずを、箇条書として、痛烈に弾劾だんがいしたものであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、説明できることは、こんなとき人間は、何か無性に鬱懐うっかいを放ちたくなる。天地に向って慟哭どうこくしたい感情を反対な形で現わそうとした努力が、思わず朗唱ろうしょうとなったのかもしれない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱心に聞いている顔つきを装うと、美少年は、鬱懐うっかいをもらすように
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)