馬背ばはい)” の例文
蔦之助つたのすけむちも折れろとばかり、ぴゅうッと馬背ばはいを打ってさけんだ。馬もはやいがより以上いじょうに、こころは三方みかたはらにいっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえば愛国の理想をえがくならば、戦争のとき、馬背ばはいにまたがって功名こうみょう手柄てがらをするをもってただちに理想とは称しがたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こう云う皮膚は、雨にさらされ風に打たれつゝ馬背ばはいに日を暮らす武人のものでなく、深窓に育って詩歌しいか管絃かんげんの楽しみより外に知らない貴人のものである。
と、その仆れた馬の胴へ、他の馬がつまずいて乗ってきた敵が不覚にも、ズルズルと馬背ばはいすべり落ちた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ほほ……。もう何にもお願いしないわ。でも、馬にだけは乗せてくれるでしょう?」青年は、夫人を介添して、夫人のほっそりした右の片足を支えて、馬背ばはいにまたがらせた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
歩るいてさえ冷々ひやひやする峠路とうげみち馬背ばはいによりて行くとは、少し猛烈過ぎるけれども、吾々はそんな事にひるむ人間ではない。冒険は元々覚悟の上だ。「よかろう。それも面白いだろう」とたちまち一決。
このたくましい栗毛の馬背ばはいであった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
見れば、善光寺方面から真黒に流れて来たべつな一軍も、同じ地点に合し、いよいよそこを足場とするもののごとく、最後の荷駄隊も、馬背ばはいのものや牛車の物を降ろしている。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その鞍壺へ手を掛けると甚内は翩翻へんぽんと飛び乗った。ピッタリ馬背ばはいへ身を伏せたのは、手裏剣を恐れたためであって、「やっ」というと馬腹を蹴った。馬はさっと走り出した。馬首は追分へ向いていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)