“顔(かん)” の例文
旧字:顏
嬋娟(せんけん)たる花の顔(かん)ばせ、耳の穴をくじりて一笑すれば天井から鼠が落ち、鬢(びん)のほつれを掻き立てて枕(まくら)のとがを憾(うら)めば二階から人が落ちる。
かのスミレの顔(かん)ばせを成せる花が凋落し行く頃からこの閉鎖花が出る。閉鎖花とは名の如(ごと)く閉鎖した花で一向に色のある普通の花弁を出さない。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
また少女の姿は、初めて逢(あ)ひし人を動かすに余(あまり)あらむ。前庇(まえびさし)広く飾なき帽(ぼう)を被(か)ぶりて、年は十七、八ばかりと見ゆる顔(かん)ばせ、ヱヌスの古彫像を欺(あざむ)けり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
肝心の水谷八重子(みずたにやえこ)の月の顔(かん)ばせもしばしばその前方の心なき帽子の雲に掩蔽(えんぺい)されるのであった。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
花世の寒いほど麗輝(れいき)な顔(かん)ばせは、ようやく、驚きからホホ笑ましげに和(なご)んで——
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)