くつした)” の例文
雨降りだと、日本人がうるさくまとはないから、くつした一つ買ふにも町中歩きまはつて、ゆつくり値段の廉いのを捜す事が出来るからださうだ。
紫のくつした穿ける議官セナトオレ、紅の袴着たる僧官カルヂナアレ達を見て、おのれがかゝる間に入り、かゝる人に交ることをいぶかりぬ。
いや、私は春になつてから此方へ来たんですけれども、公署でも見たものが沢山あります。靴も破れてくつしただけで歩いて来た女などもあつたさうです。凍えて死んだ子供を
一少女 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
両側をかなめかなにかの生籬にしてあるのはいゝとして、狭い靴脱から、もう縁板がいやに拭き光りがしてをり、廊下を踏んでゆくと、茶黒い光沢つやを帯びたものがくつしたを吸ひとるやうにひつぱるのである。
薄暮の貌 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
珍しくうららかに浅碧あさみどりをのべし初春の空は、四枚の障子に立て隔てられたれど、悠々ゆうゆうたる日の光くまなく紙障にえて、余りの光は紙を透かして浪子が仰ぎしつつ黒スコッチのくつしたを編める手先と
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
くつしたむ女なりしが
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あかくつしたひも
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その日になると、市長はしつくりと礼服を着込み、絹製のくつしたに、おろし立ての靴を穿いて、大威張りで出かけて往つた。
靴とくつしたとは汚れ裂けたるまゝなり。後にきて來たるは同じさまに汚れたる衣着たる父母なりき。この父母はおのれ等の信ぜざる後世ごせのために、その一人の童を賣りしなるべし。われ。
微笑を含みてこの光景ありさまを見し浪子は、日のまぶしきにまゆあつめ、目を閉じて、うっとりとしていたりしが、やおらあなたに転臥ねがえりして、編みかけのくつしたをなで試みつつ、また縦横に編み棒を動かし始めぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
夫人はいつもの事なので良人をつとの方には見向きもしないで、せつせとくつしたを編むでゐた。女といふものは韈を編む時には
山羊は二頭づゝの列をなして洞より出で、山の上に登りゆけり。殿しんがりには一人の童子あり。尖りたる帽を紐もて結び、褐色かちいろの短き外套を纏ひ、足には汚れたるくつしたはきて、わらぢくゝり付けたり。
自分のくつしたを買ひにか、それとも貞奴さだやつこへの進物を調とゝのへにか、そんな詮議は牧師か女中かのする事で、自分達のやうな忙しい人間のする事ぢやない。とにかく福沢氏は三越へ往つた。
くつした一つ買ふにも、市中の雑貨商を二三軒歩き廻つた上、一番やすい店で買ふ事にする。