なや)” の例文
わたしの眼を開いて呉れたのは、なやみよ、お前だ。わたしを難みに引き入れて呉れたのは、罪よ、お前の骨折のお蔭ではないか。結句お前達は、わたしの恩人だ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ささやかながらいほりを結んで、時折渡りになやむと見えた旅人の影が眼に触れれば、すぐさまそのほとりへ歩み寄つて、「これはこの流沙河の渡し守でおぢやる。」と申し入れた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これ猶今の所謂神經といふものを無形物と見做して而して其の作用を氣と名づけたるが如くに見える。氣府論や氣穴論に見ゆる氣の義の如きは、今の語を以つて的解を下すになやむ。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
余程往って最早もう千歳村ちとせむらであろ、まだかまだかとしば/\会う人毎に聞いたが、中々村へは来なかった。妻は靴に足をくわれて歩行になやむ。農家に入って草履を求めたが、無いと云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夜を徹して予が病躯びょうくあたためつつある真最中なりしなり、さて予は我に還るや、にわかにまた呼吸の逼迫ひっぱく凍傷とうしょうなやみ、眼球の激痛げきつう等を覚えたり、勿論もちろんいまだまなこを開くことあたわざるのみならず
昨夜ゆうべ磯吉が飛出した後でお源は色々に思いなやんだ末が、亭主に精出せと勧める以上、自分も気を腐らして寝ていちゃ何もならない、又たお隣へも顔を出さんとかえって疑がわれるとこう考えたのである。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「飯を食う」という実際問題にいつももだなやんでいた。何だか自分のようなか弱い人間にそんな恐ろしい現実問題が解決が出来るであろうかというような恐怖の情に襲われることがしばしばであった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)