陰々いんいん)” の例文
宵月よいづきころだつたのにくもつてたので、ほしえないで、陰々いんいんとして一面いちめんにものゝいろはいのやうにうるんであつた、かはづがしきりになく。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
舟子かこの一人は、それを気にするやうに、そつと舷から外を覗いて見た。霧の下りた海の上には、赤い三日月が陰々いんいんと空に懸つてゐる。すると……
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
船橋にいる一等運転士パイクソンの声は、まるで地の底から聞こえてくるように、陰々いんいんたるひびきをもっていた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひとりごとともつかない陰々いんいんたる左膳の声に、お藤もチョビ安も、ぞっとしたように口をつぐんでいる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三年と二年! 双方の陣に一道の殺気陰々いんいんとしてあいかくあいした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
陰々いんいんと、灰色はいいろ重き曇日くもりび
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夜も陰々いんいんと。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その段を昇り切ると、取着とッつき一室ひとま、新しく建増たてましたと見えて、ふすまがない、白いゆかへ、月影がぱっと射した。両側の部屋は皆陰々いんいんともしを置いて、しずまり返った夜半よなかの事です。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真夜中の空気は、って、そよとの風もございません。垣根のそとは、客人大権現まろうどだいごんげんの杉林。陰々いんいんたる幹をぬって、夜眼にもほのかに見えるのは、月を浮かべた遠い稲田の水あかりです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
再び、名もきかぬ三味線の音が陰々いんいんとして響くと
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
陰々いんいんとして深山みやまの気がこもって来た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)