鎧兜よろいかぶと)” の例文
まるでもう三千円が鎧兜よろいかぶとに身をかためて腹の奥にふんぞりかへつてゐるやうなものだ。そこで椋原孔明氏は極めて冷静に呼鈴を押した。
天龍川てんりゅうがわのほとりに出てからも、浪士らは武装を解こうとしなかった。いずれも鎧兜よろいかぶと、あるいは黒の竪烏帽子たてえぼし、陣羽織のいでたちである。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
英国や、欧洲大陸や、亜米利加アメリカでは、まだスコットランドの領主ランドロードという封建時代の鎧兜よろいかぶとを珍重する。一体人間は仮装会を好むものらしい。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
んぬる長光寺ちょうこうじの城攻めの折も、夫は博奕ばくちに負けましたために、馬はもとより鎧兜よろいかぶとさえ奪われて居ったそうでございます。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我国固有の国民思想を保存し涵養かんようさせるのでも、いつまでも源平時代の鎧兜よろいかぶとを着た日本魂やまとだましいや、滋籐しげどうの弓をげた忠君愛国ばかりを学校で教えるよりも
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「黙られい! いたずらに大言壮語——オッ、そういうお手前は、笠間氏じゃな、うわさによると、お手前は鎧兜よろいかぶとを着してしんかれるということじゃが」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
駄目だめッてことよ。橘屋たちばなや若旦那わかだんなは、たとえお大名だいみょうから拝領はいりょう鎧兜よろいかぶとってッたって、かねァ貸しちゃァくれめえよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
鎧兜よろいかぶとで身を固めろ。それも、年なら二十になるまでだ。自分で自分のことができるようになれば、お前は自由になるんだ。性質や気分は変わらんでも、家は変えられる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかし、どちらであるにしても、内濠とある以上は、たとい天下、波風一つ起こらぬ泰平のご時勢であったとて、濠は城の鎧兜よろいかぶと、このあたり一帯の警戒警備に怠りのあるはずはない。
「では、蔵の中から不用の鎧兜よろいかぶと太刀などを持ち出して、売り払ってはどうだ」
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
当方武士数十人、鎧兜よろいかぶと、抜き身のやり陣羽織じんばおりを着し、騎馬数百人も出、市中は残らず軒前のきさき燈火あかりをともし、まことにまことに大騒動にこれあり候。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あの水戸浪士が通った時から見ると、隔世の感がありますね。もうあんな鎧兜よろいかぶとや黒い竪烏帽子たてえぼしは見られませんね。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)